Home > Highlighting JAPAN > Highlighting JAPAN 2010年6月号 > 先端医療開発特区(スーパー特区)(仮訳)

Highlighting JAPAN

前へ次へ

特集「ライフ・イノベーション」

先端医療開発特区(スーパー特区)(仮訳)

English

ジャパンジャーナルの澤地治が最先端の医療技術開発を支えるスーパー特区として実施されている3つの事例を報告する。

2008年11月、最先端再生医療、医薬品・医療品の開発、実用化を目指した先端医療開発特区(スーパー特区)として24件のプロジェクトが採択された。

スーパー特区はライフ・サイエンスにおける基礎研究の成果を、いちはやく国民に還元するための仕組みである。スーパー特区は先端医療研究を行っている複数の大学、研究機関、病院に所属する研究者グループが行うプロジェクトを支援する仕組となっている。

「日本では、薬害や医療事故を防止するために、医薬品や医療品の実用化までには様々な規制をクリアする必要があります。企業は非常に慎重にならなければ実用化できない仕組みになっているのです。」本庶佑総合科学技術会議議員は言う。「そのため、基礎研究の成果が直ぐに実用化できないという問題があったのです」

スーパー特区として採択された分野は、1) iPS細胞の応用、2)再生医療分野、3)革新的な医療機器の開発、4)革新的なバイオ医薬品の開発、5) 国民保健に重要な治療・診断に用いる医薬品・医療品の研究開発である。研究期間は5年間。

スーパー特区として採択されたプロジェクトに対しては、開発・実用化を後押しする制度的・財政的な支援が実施されている。また、スーパー特区によって開発され、医療上特に必要性が高いと認められる医薬品、医療機器については、行政側による優先的な相談、審査を受けることができるようになっている。

「行政側からどのような試験が必要なのかといったアドバイスを受けられれば、研究者は効率的に研究を進めることができるのです」

iPS細胞を使った毒性評価

スーパー特区の中で、実用化が近いと期待されるプロジェクトの一つが、水口裕之医薬基盤研究所チーフプロジェクトリーダーを代表者とするヒトiPS細胞を使った医薬品の毒性評価システムの構築だ。

製薬メーカーが新薬を開発する際、その毒性を動物やヒトの肝臓細胞を使って調べている。しかし、ヒトの生体内から取り出した肝臓細胞は非常に高価で、品質が一定でないという欠点がある。また、動物の肝臓細胞では問題がなくても、ヒトで毒性が判明する場合もあるのだ。新薬開発中止原因の30%は、動物実験や人での臨床試験の段階で毒性が判明したことによる。

「今年4月、iPS細胞の8〜9割を肝臓細胞に分化させる実験に成功しています。品質が安定した肝臓細胞を安価に作れる道が見えてきたのです。」と水口氏は言う。「開発の早い段階で正確に毒性や有効性を評価できれば、新薬開発の時間も大幅に削減出来ます。複数の大手製薬メーカーから、IPS細胞から作り出した肝臓細胞を毒性試験に使いたいという申し出もあり、今後、共同研究を進める予定です」

水口氏らの研究チームは、これから2〜3年のうちに、iPS細胞を使った薬の毒性評価方法の確立と、その毒性評価の基準作りを目指している。

「スーパー特区に採択されたということは、その研究の将来性が政府によって高く評価されているということ。研究者や企業の注目度がまったく違います」と水口氏は言う。「実用化には企業との協力が不可欠ですので、そういう意味でも、スーパー特区の効果は非常に大きいのです」

パーソナライズドの人工関節

スーパー特区の中には、企業が中心となって進められているプロジェクトもある。それが、ナカシマメディカルによる人工関節の長寿命化とそのパーソナライズド生産システムの構築だ。

高齢化の進行を背景に、近年日本では人工関節の使用者が増加している。しかし、その耐用年数は15年程度のため、置き換え手術が必要になる人もいる。また、人工関節は必ずしも患者それぞれの骨格に合わせた形状で作られていないため、使用中にずれる、あるいは痛みが生じるという問題も起きている。

特に金属製の人工股関節は他の素材のそれと比較し耐久性に優れているが、使用していくうちに足の付け根にあたる「骨頭」と呼ばれる可動部分が摩擦で磨り減っていくという欠点があった。

「今後、新興国の経済発展や世界的な高齢化の進行により、長寿命、かつ、サイズや機能が患者一人一人にフィットしたパーソナライズドの人工関節のニーズは確実に高まるでしょう」と藏本孝一ナカシマメディカル常務取締役は言う。

今回開発した製品は、これまでと同じ金属製ながら生体関節の表面と似せて「骨頭」の表面に、潤滑油となる体液が貯留できるように超微細なくぼみを作ることで、長寿命化を図ったものだ。

「新製品を人体に使うためには行政側の認可が必要です。通常、認可に3〜4年かかるのですがスーパー特区により、1〜2年で認可が取れるのではと期待しています」と藏本氏は言う。

ナカシマメディカルでは、オーダーメードの人工関節を作る機械の開発も進めている。患者の体型などのデータを入力すれば、工業製品のように、自動的に部材を削って、その患者に最適の人工関節を作れるというものだ。

「現在は、様々なサイズや種類の人工関節を揃えておかなければなりませんが、パーソナライズド化により、多数の在庫を持つ必要もなくなり、コストを抑え、無駄のない効率的な生産が可能になります」と藏本氏は言う。「3年後にはこのシステムを完成させることを目指しています」

細胞シート

スーパー特区に採用された再生医療研究の中で、既に臨床段階に進んでいるのが岡野光夫東京女子医科大学教授率いる「細胞シートによる再生医療実現プロジェクト」である。細胞シート回収の実現につながる基盤技術は1990年に岡野教授によって世界で初めて開発された。

細胞シートの特長の一つは、縫合することなく、移植した細胞がぴったりと組織・臓器にくっつき、その組織・臓器の機能を発現することだ。

2007年には大阪大学病院で重い心臓病の患者の心臓に、自分の足の筋肉から作った細胞シートを貼り付けるという治療に世界で初めて成功している。この他に、角膜の細胞シートによる視力の回復、食道がんを除去した後の組織の再生といった臨床試験にも成功している。また、肺、歯周、軟骨の細胞から作った細胞シートによる臨床試験もまもなく行われる予定だ。

かつては、細胞シートの治療について岡野教授の属する東京女子医大以外での利用には、開発途中であったために制限があった。しかし、スーパー特区に採択されたことによって、連携する病院や施設での利用が可能になり、細胞シートの技術の進展が加速されている。

「細胞シートによる再生医療の実用化は、新しい産業の創造につながります」と岡野教授は言う。「細胞シート関連の市場は、10〜20年後には世界で20兆円規模の市場になると私は予想しています」

細胞シートを作り出す知識・技術を持っているのは、世界で岡野教授の研究チームしかいない。それゆえ、岡野教授の下には、世界各国から研究者が集まってくる。

「日本の高度な科学と技術で世界の患者を治すことが、私の夢なのです」

前へ次へ