Home > Highlighting JAPAN > Highlighting JAPAN 2010年7月号 > ダイヤモンド半導体(仮訳)
その美しい輝きから、人々を魅了し続けてきたダイヤモンド。『宝石の王』とも呼ばれるこの鉱物が、いまエレクトロニクスの世界で大きな注目を集めている。佐々木節が報告する。
2003年、日本のNTTとドイツ・ウルム大学の共同チームが、81Gヘルツという世界最高の周波数特性をもつ半導体を試作したとして、世界中の研究者をあっと驚かせた。その後、2006年にはNTT単独で120GHzを達成。これは現在でも世界最高記録である。
素材になったのはダイヤモンドの結晶だ。以来、ダイヤモンド半導体の研究者として世界をリードしているのが、NTT物性科学基礎研究所で薄膜材料研究グループのリーダーを務める工学博士・嘉数誠氏である。
半導体は現代社会において欠かせない存在だ。携帯電話、パソコンから、人工衛星まで、すべての電子機器に半導体が組み込まれている。半導体基板の素材は、現在シリコンが主流だが、熱に弱いという欠点があり、許容量を超える電流・電圧が半導体にかかると、発熱し、誤作動の原因となる。「ダイヤモンドはシリコンに比べ、融点は2.3 倍、熱伝導率は13倍と、半導体の高出力化やエネルギー効率の向上には欠かせない優れた特性をもっています」嘉数氏は言う。「だから私はこれを『究極の半導体』と呼んでいます」
高純度のダイヤモンドへの挑戦
ダイヤモンドが「究極の半導体」ならば、すでに実用化されていそうなものだが、そうならなかったのは、天然ダイヤはもちろん、人工的に作った工業用ダイヤでも、炭素以外の不純物が多すぎたためだ。実際、アメリカの企業や大学では、20〜30年も前からダイヤモンド半導体の研究が行われていたものの、いずれも実用化へのきっかけすら掴めていなかった。
嘉数氏が社内公募で研究予算を獲得し、ダイヤモンド半導体の開発をスタートさせたのは2000年のこと。このとき、まず取り組んだのは、純度の高いダイヤモンド結晶を成長させる条件を探ることだったという。
嘉数氏ら研究チームは、半導体素子の製造工程で一般的に使われる「マイクロ波プラズマ気相成長(CVD)法」を使い高純度のダイヤモンド薄膜の成長に取り組んだ。CVD法は、様々な物質の薄膜を、化学反応を利用して基板の上に堆積させるという方法である。ダイヤモンドを作る原料は、炭化水素ガス(メタン)と水素ガス。この二つを混ぜた原料ガスをマイクロ波で分解すると炭素原子ができあがる。この炭素原子が高温下で基板上に結合していくとダイヤモンド薄膜になるのだ。
しかし、酸素や窒素といった炭素以外の原子が混入していたり、原料ガスの混合比や温度が適切でないと、高純度のダイヤモンド薄膜を成長させることができない。
そこで、研究チームは、温度や混合比などの条件を変えながら、24時間体制で繰り返し実験を続けた。そして、半年以上かかって、厚さ数ミクロンメートルの高純度のダイヤモンド薄膜を作ることに成功したのだ。これが、世界最高の周波数特性を持つダイヤモンド半導体の試作へとつながった。
少年の日の夢を現実に
ダイヤモンド半導体の実用化が期待されるのは主に通信の分野だ。通信衛星や地上放送局、空港のレーダーの心臓部には、いまだに真空管が使われている。真空管はシリコン半導体などに比べ、高い出力や周波数に耐えることができるが消費電力が大きく、寿命も短い。ダイヤモンド半導体を真空管の代わりに使えるようになれば、エネルギー効率の面でも、耐久性や信頼性の面でも、機器の性能は一気に向上する。
「実用化に向けての目標は、まず試作品の品質を安定させることですね」嘉数氏は言う。「そのためには新しい半導体素子製造技術を開発しなければなりませんが、あと2、3年あれば可能だと私は考えています」
ところで、ダイヤモンドを素材に使うとなれば、気になるのはコストの問題だが、その点を訊ねると彼は笑いながらこう答えてくれた。
「高価なイメージですよね。でも、ダイヤモンドの材料は炭素にすぎないのです。製造法さえ確立できればコストはまったく問題になりませんよ」
子どもの頃、トランジスタの発明物語を読んで感動し、科学者を志したという嘉数氏。少年の日の夢に向かって、未知のフロンティアを今日も進み続けている。
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