Home > Highlighting JAPAN > Highlighting JAPAN 2010年8月号 > 中野鉄工所(仮訳)
自転車を使っていれば自然とタイヤの空気は減っていく。だから時々空気を入れるのが当たり前。この常識を覆したのが中野鉄工所の開発した、空気入れの要らない自転車エアハブだ。柳澤美帆が、中野隆次社長にエアハブ誕生秘話、ものづくりに掛ける信念を聞いた。
日本における自転車製造のピークは1990年代初頭。現在の8倍にもあたる年間800万台が生産されていた。
そしてその当時、自転車全体の生産台数の半分にあたる約400万台分の車輪の中心部のハブを製造していたのが、大阪府堺市にある1948年創業の中野鉄工所だ。
しかし1990年代半ばになると、中国製の安い自転車が市場を凌駕し、日本の自転車メーカーは衰退していった。それに伴い、国内のハブメーカーも次々と姿を消していき、中野鉄工所もこのままでは、いずれ廃業を待つだけというところまで追い込まれていた。
「中国製のハブに価格で対応することは無理。なんとか付加価値の高いハブを作ることはできないかと考え続けました」と、二代目社長の中野隆次氏は言う。
パンクの原因は空気圧
ある日、取引先の自転車メーカーに、自転車のユーザーが日頃不便、不満に思っていることはどんなことなのかと聞いてみると、一番は自転車のサビ、二番は盗難、三番はタイヤのパンクだという答えが返ってきた。
どれもハブには関係がなさそうに思われたが、話を進めるうちに、自転車のパンクの原因の多くは「タイヤチューブの空気圧の低さ」にあることがわかった。ゴム製タイヤの内部にあるチューブの表面には、目に見えない無数の小さな穴があり、何もしなくても常にそこから一定の割合で空気が漏れている。空気圧が低くなったチューブは、走行時に受ける路面からの衝撃を緩和できず、車輪のリムがチューブを傷つけやすくしてしまうため、結果としてパンクにつながるのだ。ゴムメーカーによると、全く穴をなくしてしまうことはできないのだという。
「それなら空気が漏れる分をハブから供給できればいいのではないか」
社長の頭に何かがひらめいた。ピストンの原理を使って、走行中のタイヤの回転運動をハブ内部で上下運動に変換する構造を作り上げて、ハブ内部の空気を吸い込みピストンで圧縮して送り出し、チューブに供給、さらに適圧以上になった場合は安全弁から空気を出すという画期的なハブを生み出した。製品化にあたっては、安全弁から雨水を吸い込んでしまうという問題に悩まされたが、試行錯誤の末、弁を二重の構造にすることで解決した。2001年12月に開発に着手してから約2年強、ようやく“エアハブ”が完成した。
自転車はまだまだ改良できる
当初目標とした年間販売台数1万台は僅かに1ヶ月で達成という記録的ヒットとなり、その後も順調に売り上げを伸ばしている。現在、購入できるのはエアハブを搭載した通常の自転車、電動自転車、三段変速ギア対応自転車の他、エアハブを搭載した子供用自転車さらには車椅子もある。もちろん、新規にエアハブ搭載モデルを購入しなくても、エアハブのみ或いはエアハブと車輪のセットを購入し、自分の愛車に取り付けることも可能だ。
「自転車というのは、いまの状態が完成されたスタイルで、改良を加える余地なんてないと誰もが思い込んでいたんです。でも自転車がいまの形に落ち着いてからまだ100年そこそこしか経っていないんですよ。それで開発しつくしたなんてことはありえない。安全や快適性を考えたら、まだまだ改良の余地はあると思います。例えば、寒いときでも暖かいハンドルとかね(笑)」
自転車産業の急激な衰退に、一時は自動車部品の製造業へ転換を図ろうと思ったこともある。だが“自転車製造に関わる仕事に生かされてきた”という強い思いが、彼をここまでひっぱってきた。
“何をするにも気持ちひとつで活路は開ける”。この信念で、これからも中野鉄工所はものづくりを続けていく。
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