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Highlighting JAPAN

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特集森林の利用と再生

森は海の恋人(仮訳)

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山に木を植え、森をつくり続けている漁師が宮城県気仙沼市にいる。「カキじいさん」と呼ばれる、畠山重篤さんだ。なぜ、海に暮らす漁師が、20年以上も森づくりに奔走しているのだろうか? その答えは、豊かな海を守るためにはそこに注ぐ川が大切であり、そのために源流の森の環境をよくすることが不可欠だから、だ。

畠山さんがカキ養殖を営む気仙沼湾は、大川が太平洋に流れ込む、山々に囲まれた美しい湾だ。50年前、この湾は非常に豊かだったという。仕掛けを沈めれば、船底いっぱいになるほどのうなぎがすぐに獲れ、干潮時にできる水たまりをのぞけば、カニや小魚がたくさんいた。

しかし、高校を卒業した畠山さんが、家業のカキ養殖業を継いでまもなくの1960年代半ば、環境は急変した。赤潮プランクトンが大量発生したのだ。美しかった海は赤茶色に濁り、うなぎが一匹もいなくなり、油やゴミが浮かぶようになった。カキは本来は白いはずの身が血のように赤く染まってしまい、まったく売り物にならなくなってしまった。

「カキは1日に200~400リットルもの海水を吸うことで呼吸し、海水に含まれる植物プランクトンを栄養にしているんです。そのため、海の汚れはカキにとって致命的です。被害が少なかったホタテの養殖でなんとか生計を立てましたが、年々生活は苦しくなり、やむを得ず漁師をやめていく仲間も多かったですね」

そんな状況を変えるきっかけとなったのが、1984年にフランスへカキ養殖の視察に出向いたときのことだ。河口の干潟で健康なカキが育つロワール川をさかのぼると、上流には動物たちの棲む落葉広葉樹の広大な森があった。ふかふかの腐葉土はたっぷりと雨水を吸い、その水が地下へ浸透してから川となって海へ流れていることを実感した。

「その光景を見て、森と川の大切さにはっと気付きました。帰国して、気仙沼湾に注ぎ込む大川を遡って歩いてみたところ、川には水産加工場からの油や生活排水が流れ込んでいました。杉の人工林は木材の価格下落のために間伐されずに放置され、地面まで日が届かないために下草も生えず土がむき出しの状態に。大雨になると下草や低木の生えてない土壌には、水が十分にしみこまず、泥水が直接川へと流れ込む……。これは大変だと思いました」

それから畠山さんの活動が始まった。みんなで川をきれいにしてほしい、森を保全してほしい。その願いをアピールするため、1989年に「第一回・森は海の恋人植林祭」を開催し、大川源流の村の村長の協力を得て、仲間とともに森を整備し、初めて広葉樹を植えた。以来、毎年続けてきたこの植林活動が人々の関心を集め、次第に排水規制が行われ、農薬を控える農業が推進されるなど、地域全体で環境保全に取り組む積極的な動きにつながった。一方で、海と森の関係を科学的に解説するために水産学者を訪ねたり、活動を広報するためのキャッチフレーズを求めて歌人と交流したりもした。このような活動が実を結び最近の気仙沼湾は美しい姿を取り戻しつつあり、カキの身は、透き通るように白くなってきた。

また、2009年にNPO法人「森は海の恋人」を創設、畠山さんは子どもたちの体験学習にも力を注いでいる。体験学習に参加した子どもから「シャンプーの量を半分にしました」などの手紙をもらうこともある。海や森での滞在を通じて自然界の仕組みを肌で知り、暮らしを見直すきっかけにしてもらうことを目的に合宿を開催している。畠山さんはこう語る。「大切なのは、人間の意識です。意識が変われば、環境が変わる。そのため、人の心にどうやって木を植えるかが、私たちの活動テーマなのです」

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