Home > Highlighting JAPAN > Highlighting JAPAN 2010年11月号 > 溶けるステント(仮訳)
「ステント」は血管の狭くなった部分などを内側から広げて維持する(もしくは、足場となる)ために体内に移植するチューブだ。この医療器具を、体内で自然に分解・吸収する製品、すなわち「溶けるステント」として開発することに医療機器会社 京都医療設計が成功した。山田真記が伊垣敬二氏と故・玉井秀男氏の業績を報告する。
心臓から出た血液は瞬く間に全身にくまなく流れていく。血液を全身に運ぶ管が動脈である。この動脈の内腔にコレステロールやカルシウムが沈着し、動脈壁の一部が硬くなったり、狭くなったりして、血液が通りにくくなるのが動脈硬化症だ。放っておくと心筋梗塞や脳出血などが引き起こされる危険があり、最悪の場合死に至る恐れもある。
「1970年代の中頃までは、動脈硬化症の治療として、内腔が狭くなった動脈にバイパスをつくる外科手術が行われていました。その当時、動脈硬化症の治療は外科医の仕事でした」と話すのは、京都医療設計社長で、溶けるステントの開発者でもある伊垣敬二氏。「1977年にスイスの医師グルンチッヒがバルーン・カテーテルという新たな血管形成術を考案しました(血管形成とは血管を機械的に広げること)。その名の通り、風船のついたカテーテルを動脈の病変部に挿入して風船をふくらませることで、患部を広げるというものです。しかしこの方法だと、血管を傷つけ血栓ができて、再び血管が狭くなることが分かったのです。そこでバルーン・カテーテルに代わる治療法としてステント治療が考案されました」
ステントとは、血管をはじめとした人体の管状の部分(気管、食道、十二指腸、大腸、など)を管腔内部から広げる医療機器である。金属でできた網目の筒状の形をしており、治療する部位に応じたものが用いられる。金属製ステントを用いた動脈硬化治療は現在広く一般化しているが、伊垣氏はこの治療法には問題点があると指摘する。
「金属製ステントの場合、血管に刺激を与え続けるため、新生内膜(金属製ステントによる刺激が原因で膨れあがった細胞の膜)が生じて、結果的に再狭窄につながることがあります。再狭窄は治療すべきですが、金属製ステントが残っているので、さらなる治療に進むことができないのです。ほとんどの再狭窄は、ステントを挿入してからから半年以内に起こります。ステントが血管の足場となるのは、この期間に限られるのです。こうしたことが背景となり、私たちは体内で分解・吸収されるステントの開発に着手したのです」。
「溶ける」という発想
伊垣氏が同僚の故・玉井秀男氏と体内吸収型ステントの研究を始めたのは1990年代の前半のことだ。伊垣氏らにとって最も大きなチャレンジは、ステントの素材の選択だった。「溶けるステント」の素材には、一定の強度を保ちながら、最初の半年程度血管を広げる役割を果たし、その後は体内で徐々に分解されていく性質が求められる。研究の結果、生体分解性合成ポリ乳酸の使用を決めた。伊垣氏はこう話す。
「ポリ乳酸は血液内の水分の存在によって、しだいに水と二酸化炭素に代謝されます。6〜9カ月間は外側へ拡張する力を維持でき、その後1〜2年以内で体内に完全に吸収されます。また乳酸は、もともと人間の体内にある物質なので、安全性についても懸念はありません。さらに当社は、極細のポリマー管をつくる技術に関しては世界でもトップレベルにあります。その技術力も、体内吸収型ステントの開発に活かすことが出来ました」。完成した「溶けるステント」は、長さ3.6センチと7.8センチ、直径は5〜8ミリの4種類があり、主に閉塞性動脈硬化症によって下肢の血管が詰まった場合の治療に使われる。
京都医療設計では、2003年より、ドイツとイタリアの病院で「溶けるステント」の臨床試験を実施し、医療機器としての流通が可能になる欧州の安全性基準「CEマーク」を取得、昨年から欧州で販売が始められている。現在は日本での販売認可の取得を目指している。「私たちは心疾患にも使える体内吸収型ステントの臨床実験も始めています。ただ、心臓の場合、治療に不都合が生じると、即、命にかかわる事態につながる可能性が非常に高いので、さらなる開発のために慎重に研究を進めています」と話す伊垣氏。「溶けるステント」を実現した技術力を生かした、さらなる次世代ステントの開発に期待したい。
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