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Highlighting JAPAN

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特集「伝統」と「現代」の融合~Cool!Japanを担う人々

最新の車両に伝統美を(仮訳)

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デザイナーの水戸岡鋭治氏は、木の温もりに満ちた、新しいのに懐かしさを感じさせるインテリアの人気車両を次々と生み出している。今も新型車の設計に取り組んでいる水戸岡鋭治氏に松原敏雄が話を聞いた。

──鉄道をデザインするうえで、どんなことを重視されているのでしょうか。

水戸岡鋭治:人が使う道具をいかに心地よく作るかというのが、大きなテーマです。ですから、僕は常に利用者の立場に立ってデザインします。生活空間で心地よいもの、例えば気の利いたレストランやリビングルーム、リゾートホテルといったものを車両の狭い空間に圧縮して、閉じ込めていく。検証と再構成を重ねて、使い勝手、色、形、素材などをジグソーパズルのように組み合わせていくわけです。

アーティストとして何か特別にイメージしたものを作っているという気持ちは全くありません。それをやったら、公共の道具にならないからです。単なる作品になってしまう。

最初は考え方から決めます。まず、この電車は何のために、誰のために何をどうするのかというコンセプトを作る。私は製品ではなく、商品を作りたいんです。製品は答えが見えていて、そこに必要な機能を盛り込んで形にするわけですが、それだけでは商品にはなりません。商品はお客様に受け入れられないことには存在価値がありません。何をどうすればお客様に歓んでもらえるのか。その未知の答を見つけることが一番重要です。それは、利用者の立場に立たないと生まれません。

──自然の素材や和のテイストなどを、積極的に取り入れていらっしゃいますね。

やはり、日本ならではのアイデンティティがデザインに必要だと思います。日本の文化や歴史の力を持ち込んで初めて、世界に通じるものになるからです。だから、私はその地域の持っている素材や伝統工芸を使うのです。

例えば、九州を走る新幹線800系「つばめ」のブラインドや額縁といった木の無垢材は、すべて地元九州の山桜を使っています。壁は楠です。いわば、地域の歴史や風土を乗せた車両が、その沿線を走って行く。それが旅の豊かさや心地よさにつながればと思っています。

──鉄道はヨーロッパで生まれて発展してきましたが、海外の車両にはどんな感想をお持ちですか。

ICE、Talgo、TGVなど、世界にはいい車両がいっぱいありますし、デザインも優れています。昔のオリエント・エクスプレスなどは世界最高の寝台列車で、貴族の豪華な邸宅を車両の中に持ち込みました。私たちの方はちょっとレベルは違いますが、それと同じようなことをやっているわけです。車両はリゾートホテルを超えられるかというのが、僕の命題です。鉄道には山も川も海もあって、景色はリゾートホテルの何十倍もの価値があります。サービスとインテリアデザインの質を向上させれば、鉄道はホテルを超えられると私は思っています。

──デザインの持つ力が、非常に重要なものになりますね。

例えば私がデザインを担当した特急「ゆふいんの森」や「SL人吉」にはビュッフェがあります。そこでコーヒーを飲んでサービスクルーと言葉を交わせば、ちょっとした思い出になるじゃないですか。私たちはいわば思い出作りを手伝っているのです。旅のロマン、豊かな時間が大事なんですね。クルーもお客様も、それぞれの役を演じながら、空間を使いこなす舞台役者だと思えばいい。そのすべてを演出するのがデザイナーです。デザインの中には物語がなければいけない。私はそう思います。

──今後、どのような車両をデザインしたいとお考えでしょうか。

いま、世界最高のリゾート列車を造る準備をしているところです。九州の中を3泊4日で走る7両編成の寝台車で、それぞれ日本文化を基に、中国、イタリア、イギリスといった世界の最高峰のアートや装飾をアレンジした車両にしたいんですよ。あと2年半ほどで走り始める予定です。お客様にも自分の旅をデザインしなきゃと思っていただけるような、オリエント・エクスプレスを超える列車にできたら嬉しいです。


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