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Highlighting JAPAN

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特集日本のお酒で乾杯!

個性的で美しい酒器の世界(仮訳)

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日本酒を飲むための酒器には、様々な種類があり、それぞれ、長年にわたる歴史的、文化的背景をもっている。近年は斬新なデザインの酒器も登場している。お酒の愛好者が入手できる酒器のいくつかを紹介する。

アートとしての盃

岐阜県多治見市は、美濃焼の名で知られる陶磁器の一大産地で、中でもその南端に位置する市之倉は古くから盃の主産地として知られている。明治時代(1868 〜1912年)には、全国の盃生産の大部分を市之倉が占め、現在も盃を含めた多くの陶磁器を生産している。そんな市之倉に、まちおこしの一環として2002年に開館したのが「市之倉さかづき美術館」だ。

美術館1階の「さかづき展示室」には、幕末から明治、昭和にかけて作られた盃、約1,500点が展示されており、2階の「巨匠館」には、地元ゆかりの人間国宝や巨匠8人の作品が約40点展示されている。

「当館の数ある展示品の中でも、特に見応えがあるのは明治時代中期に作られた盃です」と同館支配人の今川祐子氏は言う。「この時代に作られた盃は、厚さが1mm以下で透き通るように薄く、細密画のように微細な絵付けが施されています。文字通り、匠の技です」

ところで、盃は直径6cmほどと、お膳に並ぶ器の中では小さいがその存在感は大きい。

「日本では昔から、日本酒は神事や儀式の場で振る舞われていました。こうした場で盃は、神様と人、あるいは人と人との間を行き交う器として珍重され愛でられてきました。そして盃を酌み交わすことが親交を深め、文字無き契約書ともいわれています」と今川さんは説明する。

市之倉では、新しい酒器の開発も盛んだ。2006年には、市之倉を含む多治見市内の3つの陶産地の職人と官学が協力し合って、美濃焼の酒器の新たなブランド作りに着手した。そして2011年には、美濃焼のとっくりと多治見市の地酒に、岐阜県大垣市で作られている木枡を組み合わせた「美濃陶酔(みのとうすい)かくとくり」を開発した。この製品は、観光庁が主催する「魅力ある日本のおみやげコンテスト2012」で、各国・地域賞の1つであるフランス賞を受賞している。


枡の常識を破る枡

日本酒の酒器として、盃と並んでポピュラーなものに、祝盃としてよく使用される枡がある。そもそも枡は、今から1,300年ほど前、米などの穀物や醤油などの液状のものの容量をはかるための容器として開発された。材料は木で、形は方形が一般的だ。檜などを材料とした酒器としての枡の歴史は意外と浅く、世間一般に広まったのは1966年以降である。この年、計量法が改正され、枡の全量検査(はかりとしての正確さの厳重な検査)が不要となり、これにより生産コストが下がり、酒器としての需要が一気に伸びたのである。

現在、枡の生産量のおよそ80%を、檜の産地に近い岐阜県大垣市の5つの生産会社が占めている。この5社の中の1つが、枡の常識を変えるユニークな商品の開発で知られる有限会社大橋量器だ。

「枡は材料である檜の香りが日本酒にとてもよく合うんです」と大橋博行大橋量器社長は言う。「お酒を注いだときの見映えも非常に良いです」

同社では、英文のホームページでも枡を紹介しているため、アメリカを中心に海外から注文が来ることも少なくない。和食レストランからの注文が多いが、以前にはニューヨークの時計店から、枡を時計のパッケージとして使いたいと、実に2,000個の注文を受けたこともあるという。

また、同社は2010年に、これまでの枡の形とはまったく異なった「すいちょこ」の販売を開始した。これは3つの三角形のパーツを組み合わせた三角すい形状の枡で、その独創的な意匠が評価されて2011年にグッドデザイン賞を受賞した。

「枡は四角いものという固定観念を払拭したかったんです。すいちょこは、角が鋭角になっているため、お酒が糸のように線状で口の中に入ってきます。見た目が面白く、かつ飲みやすいとお客さんには好評ですよ」と大橋氏は言う。


日本酒を美味しくするグラス

日本では、日本酒は盃や枡で飲むのが一般的だが、250年以上の歴史を誇るオーストリアの名門ワイングラスメーカーであるリーデル社は、大吟醸酒(原料米の精米歩合が50%以下で、気品ある香りが特長の高級酒)を飲むための「大吟醸グラス」を2000年に発売した。大吟醸グラスは、見た目には普通のワイングラスと何ら変わりはないのだが、このグラスで飲むと、大吟醸酒ならではの深い味わいと香りを最大限に引き出すことができるのである。

大吟醸グラスを商品化するきっかけは、1998年、石川県金沢市の老舗蔵元「福光屋」からリーデル社に「日本酒の美味しさを正しく伝えられる専用のグラスを開発してもらえないか」との依頼があったことだ。これを受け同社では、大吟醸酒用の60種類のサンプルグラスを試作し、日本酒の造り手や専門家らに協力を得て、大吟醸酒にふさわしいグラスの形状を選考するための選考会を25回に渡って行った。こうしてサンプルグラスは6種類に絞り込まれ、最後にオーストリア大使館で12社の蔵元と共に最終選考会を実施して、1つのグラスが圧倒的な評価を得た。それが、リーデル社オフィシャルの大吟醸グラスだ。

「このグラスで大吟醸酒を飲む時は、3分の1以上注がないようにしてください」とリーデル・ジャパン社長のウォルフガング・アンギャル氏は言う。「注ぐ量を少なくすることで、グラスの中で香りを保つスペースがより大きくなります。このため大吟醸酒の芳香な香りを楽しむことができるのです。また、口に入れる時のグラスを傾ける角度も重要なポイントです。大吟醸グラスの場合、口に含む時の自然な傾きが、大吟醸酒の甘さと酸味のバランスがベストな状態になるように作られています」

リーデルオリジナルの大吟醸グラスは、海外での和食ブームに乗って、アメリカやヨーロッパでも順調に売り上げを伸ばしている。

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