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Highlighting JAPAN

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連載|世界で活躍する日本人

ニュージーランドでワインの歴史を作る(仮訳)

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楠田浩之氏はニュージーランドで、10年以上にわたってワイン造りに取り組む。ジャパンジャーナルの澤地治が楠田氏に話を聞く。

楠田浩之氏はニュージーランドの首都ウェリントンから東北東90kmに位置するワインの産地として知られるマーティンボロでワインを造っている。丁寧な作業を通じて生み出されるそのワインは、フランス、イギリス、アメリカなどのワイン専門誌でも高く評価をされている。

「ワインの味は、太陽、雨、土、ブドウ、酵母など、様々な自然の力に大きくゆだねられています。自分では完全にコントロール出来ないところが、ワイン造りの魅力と言えます」と楠田氏は言う。「素晴らしいワインは、簡単に国境や時間を越えます。自分が造ったワインを、半世紀後に地球の裏側に住む人が美味しいと言ってもらえたら面白いですね」

楠田氏がワインの虜となったのは大学生の時だ。ワイン好きの兄から薦められて飲んだドイツのワインがきっかけだった。以来、ワインを飲むだけではなく、熱心にワインに関する書物も読むようになる。大学を1年休学し、世界旅行に出た時は、フランスやドイツのワイナリーを訪れ、日本では味わうことが出来ない数多くの貴重なワインを飲んだ。ワイン関連の就職も考えたが、自分が美味しくないと思ったワインを扱うことに抵抗を感じ、結局、大手電機メーカーに就職した。4年後、海外で生活したいという夢を叶えるために会社を辞め、オーストラリアの在シドニー日本国総領事館へと転職する。しかし、そこで働く中で、次第にワイン造りへの情熱が高まっていく。

「組織の中で働くよりも、自分の大好きなワインの世界で、自分自身の力がどの程度通用するか挑戦したくなりました」と楠田氏は言う。「それには、ソムリエや評論家になるより、ワインを造るほうが絶対面白いと思ったのです」

1997年、楠田氏は、ワインが学べる大学としては世界的に有名な、ドイツのヴィースバーデン技術専科大学に入学する。大学では、ブドウの栽培やワインの醸造の方法論だけではなく、ワインの香り成分やアルコール成分の分析といった化学的な知識も深めた。そして、卒業論文の実験のためにニュージーランドのマーティンボロを訪れた時に出会ったワイナリーのオーナーに、一緒にワインを作らないかと誘われ、移住を決意する。ニュージーランドは、シドニー領事館に勤務していた頃に、何度か訪れ、そのワインの可能性を感じていた。特に楠田氏が惹かれたのがピノ・ノワールと呼ばれるブドウの品種から作られる赤ワインだ。ピノ・ノワールは、フランスのブルゴーニュ原産で、栽培も醸造も最も難しいと言われている。

「ニュージーランドのワイン造りの歴史はわずか30年程です」と楠田氏は言う。「フランスのようにワイン造りの長い歴史がある土地でよりも、そうした新しい土地で、世界レベルで認めてもらえるワインを、栽培の難しいピノ・ノワールで造ることが出来れば、自分としても納得できるだろうと思ったのです」

2001年、楠田氏はマーティンボロに移住し、ワイン作りを始める。しかし、自然相手のワイン造りは簡単ではなかった。大雨や霜により、収穫がほとんどない年もあった。しかし、楠田氏のワインは次第に、日本やニュージーランドで評判が高まり、2008年には「2006年ピノ・ノワール」がロンドンでの世界的なワイン品評会で金賞を得るなど、国際的な評価を得るようになる。

楠田氏のワイン作りの特徴の一つは、その「完璧主義」の現れと言える、丁寧な選果だ。収穫したブドウを一つ一つ調べ、傷が付いたり、潰れたりした熟度不足の実を慎重により分けていく。イギリスの著名なワイン評論家は、英紙「フィナンシャル・タイムス」で、楠田氏のワインを、日本人の完璧主義が生み出した、たぐいまれなワインと絶賛したほどだ。

また、普段は楠田氏一人で作業を行っているが、3月頃のブドウの収穫の時期になると、日本から30〜50人のボランティアが楠田氏のブドウ畑に集まる。約半数が、楠田氏の兄が講師を務めるワイン学校の生徒であるが、残りは楠田氏のワインの魅力の虜になった人だ。飲むだけでは物足りず、その作業に加わりたいと考え、ニュージーランドまで、はるばるやってくる。

現在、楠田氏は約3haの畑でブドウを栽培し、年間約1万本のワインを生産している。そのうち、約6割が日本に輸出され、残りはニュージーランドとオーストラリアで消費されるが、今後、イギリスや、日本以外のアジアにも輸出される計画がある。

「栽培や醸造に、まだまだ改善の余地はあります」と楠田氏は言う。「ワイン造りはお金儲けのためではありません。いかに、良いワインを造るかが目的なのです」

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