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抗体医薬品創出を促進するADLib®システム(仮訳)

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多能性幹細胞を利用した再生医療などとともに、いま、医療の世界で大きな注目を集めているのが抗体医薬品である。これは生物がもつ免疫システムを応用した薬で、リウマチ治療薬や抗ガン剤などとして、すでに世界では約30種類が認可されている。ただし、こうした抗体医薬品の難点は、治療に有効な抗体を作り出すまでに長い時間がかかり、ある種の抗原に対しては上手く抗体が作れないことである。この開発期間を大幅に短縮し、新たな抗体市場を切り開く、まったく新しい手法が日本のバイオ・ベンチャー企業によって実用化されようとしている。佐々木節がリポートする。

食事をしても、呼吸をしても、人間の体内には不要なものが入ってくる。そのなかから有害な病原体などを認識し、排除するのが免疫システムである。人や動物ばかりでなく、あらゆる生き物の体内では免疫システムと非自己抗原の戦いが常に繰り広げられており、そこで重要な役割を果たしているのが抗体だ。

抗体とは抗原の刺激を受けて作り出されるタンパク質の総称で、血液や体液に大量に含まれている。病原菌などの抗原が体内に侵入すると、これと結びつき、溶解したり、無毒化することで生体を守ってくれるのだ。抗体医薬品とは、ごく簡単に言うと、体外で作製された抗体を患者に投与することにより、病気の原因を直接取り除いてしまう治療薬なのだ。

現在ある一般的な医薬品の多くは、病気の症状を和らげたり、痛みを取るなど、対処療法に使用されている。中には、病原菌やがん細胞など、特定の標的物質を攻撃する医薬品もあるが、これらは人工的に合成された物質のため、患者の体質によっては効き目がなかったり、ときに深刻な副作用を引き起こす危険もある。一方、抗体医薬品は元々体内に備わった物質であり、疾病の原因となる特定の抗原にだけ作用するため、根本的な治療が可能なうえ、副作用も少ないと考えられている。

東京に本拠を置くバイオ・ベンチャー企業、株式会社カイオム・バイオサイエンスが取り組んでいるのは、完全ヒトADLib®(Autonomously Diversifying Library:自立多様化ライブラリー)システムと名付けられた抗体の創出手法である。もともとADLib®システムは理化学研究所の研究員だった太田邦史氏(現:東京大学教授)が十数年前に開発したもの。ニワトリ由来のDT40という培養細胞株に特殊な薬剤を加えて遺伝子組み換えを活性化することで、さまざまな抗体を作り出すことができる。カイオム・バイオサイエンスでは、こうして作られた多様な抗体のライブラリーの中から、特定の抗原を結合させた磁性を持つ微粒子、磁気ビーズで、病原菌などと反応する特定のものを選び出し、さらに培養したうえで、ニワトリ細胞の抗体遺伝子の一部をヒト抗体に置換することにより、人間の疾病治療に効果のある抗体を作り出そうとしている。

この世界初の手法であるADLib®システムに大きな注目が集まっている最大の理由は、なにより抗体を作り出すまでのスピーディさにある。マウスなどの動物個体に抗体を作らせるマウスハイブリドーマ法、大腸菌を利用するファージ・ディスプレイ法など、既存の方法では7週間から16週間もかかっていたのが、一気に10日間ほどに短縮できるのだ。

「この技術を確立できれば、医療の世界に革命を起こせる」

初めてADLib®システムと出会ったときの印象をカイオム・バイオサイエンス社長の藤原正明氏はこのように振り返っている。さらに、「ADLib®システムは、将来的には、個々の患者に最適な抗体を見つけ出し、そこから安全かつ効果の高い抗体医薬品を作り出す“究極のオーダーメイド医療”を実現することも可能」と藤原氏は言う。また、ADLib®システムは短期間で抗体が作れるため、新たな感染症が発見された場合、その病気がパンデミックに流行し始める前に有効な薬を用意することさえ可能と考えられている。

現在、ADLib®システムを用いた抗体医薬品として臨床への応用が近づいているもののひとつが、全身性炎症反応症候群(敗血症)の治療薬だ。敗血症は、血液中で細菌が増殖する感染症の一種。抵抗力の弱い未熟児や高齢者、抗がん剤治療を受けている人が発症しやすい病気で、世界には数千万人もの患者がいる。すでに抗体の動物モデルでの薬効は確認されており、早ければ4~5年のうちに新薬として世に送り出すことが可能だという。

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