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日本の九州地方に位置する熊本県八代市の小さな路地の片隅で、3人の鍛冶職人が最も鋭く、耐久性を誇る刃物を手造りで鍛造している。
盛高鍛冶刃物株式会社は、刀工金剛兵衛源盛高を祖師とし、700年間に渡ってその伝統技術を継承し守り続けている。鎌倉時代に始まった盛高刃物は、現在27代目の盛高経博氏が明子夫人と共に切り盛りしている。
日本の伝統技術において鍛刀は最も洗練された技術の一つといえる。他国の刃物製造では、1枚の鉄から刃を作り出すが、盛高の刃は一つ一つ鋼を地鉄で挟み込む割り込み鋼付鍛接技法を用いて作り上げている。
6世代前、幕末期の忠左衛門盛高が刀以外の製品の製作にも取り組むべきと考え「刀工で生計を立てるべからず」の家訓を定めたことにより作刀のみの生業を終えたが、。その技術は今なお承継されている。27世代に渡り受け継がれた両刃仕立て、3層構造の盛高独自の鍛造技術は日本刀以外の刃物にも応用され、製造過程を習得するには基礎だけでも10年の修行期間が必要とされている。
「お客様は刃物の切れ味だけでなく、盛高刃物が持つ伝統や歴史に魅かれています。盛高による手造りという点にも大きな価値を見出しているのではないでしょうか」と盛高氏は言う。
盛高刃物は現在海外市場でも爆発的な人気を誇る。そのきっかけは8年前、盛高刃物が百貨店での販売活動を始めて間もない頃の小さな出来事にある。
ハワイに住む顧客が盛高氏にメールを送り、盛高刃物の格別の質の高さを絶賛した。海外での販売を始めれば、より多くの人が上質な刃物を堪能できるようになると提案したのだ。「このお客様からは本当に強く懇願していただきました。結局、2ヶ月以内に海外販売を始めると約束してしまったのです」 と盛高氏は振り返る。
その後、時々注文を入れる個人客がインターネットに良いレビューを投稿したのがブレークの始まりだった。口コミは瞬く間に広がり、盛高刃物はウォールストリート・ジャーナルの 『シェフが選ぶ包丁トップ5』 にも選ばれた。現在海外からの注文は、約6カ月待ちという長い待機リストとなっている。
経博氏が父から盛高刃物を受け継いだ16年前とは状況は大きく変わった。当時は工場に併設された小さな店舗での販売に過ぎず、地元での営業も芳しくなかった。
そのため、当初は地元のイベントやお祭りで包丁や小刀を展示し、そのうち百貨店での販売を始めた。そこで有名ブランドが並ぶ商品棚を見て、盛高ブランドを確立しなくてはならないと悟った。
そして、青紙スーパー鋼を割り込み鍛造した包丁が誕生した。
切れ味の良さと永い耐久性を特徴とする青紙スーパー鋼は、現存する刃物鋼として最高性能の鋼だと盛高氏は断言する。微妙な温度の調整だけでも高度の技術を必要とする鍛接工程の複雑さから、このレベルで刃物鋼を製造する鍛冶屋はほとんど皆無だ。「この技術をDNAに持つか持たないかのどちらかです。持っていれば、他にない最高の切れ味の刃物を造ることができる」 と盛高氏は言い切る。
海外市場で成功しているものの、盛高刃物は生産能力の三分の一は地元市場向けに確保している。「地元の皆様に支えられて続いてきた商売だということを忘れてはいけません」 と夫人は言う。
将来的な展望を盛高氏に尋ねると、「刃物の品質に妥協することなくこの仕事を続けて行くことです」 と答えた。恐らく、この先また700年継承されていくのではないだろうか。
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