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Highlighting JAPAN

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水と生きる

富士山の地下水を活用

静岡県の環境への新たな取り組み(仮訳)



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富士山の麓に広がる静岡県は、古くから豊富な地下水源に恵まれた水の王国として知られている場所の一つだ。富士山の内部は大きく三層構造をしており、一番上の層が水を通しやすく、真ん中の層は水を通しにくいことから、富士山に降った雪や雨は地下水となって表面層の中を流れていき、その末端で湧き出る仕組みになっている。豊富な地下水を蓄えているその姿は、「天空ダム」とも呼ばれている。

富士山の湧水は、産業や農業用水、住民の生活用水などあらゆる場面で利用され、周辺の工場や農地、民家などには今でも多くの井戸が残っている。富士山周辺の町を歩いていると、道路脇の至る所から湧水のせせらぎが聞こえてくることからも、その水の豊かさが実感できる。静岡県は現在、この富士山からの地下水を利用した独特の環境技術を推進している。

静岡県は2013年から、省エネルギー対策やエネルギーの地産地消を進めることを目的とし、富士山周辺から湧き出る水温が安定した豊富な地下水の熱を自然エネルギーとして活用する地中熱交換システムの普及に取り組んでいる。熱交換システムとは、温度の高いものから低いものへ効率的に移動させ、加熱や冷却を行うシステムのことである。

今回の取り組みは、富士山周辺にある既存の井戸を使用し、パイプを通して不凍液を循環させ、地下水との熱交換により得た熱エネルギーをエアコンに利用するというものである。季節による温度変化の小さい地下水の熱を活用することで、従来の空気熱交換のシステムに比べて熱交換効率が良く、使用電力量を少なくすることができ、かつ富士山周辺に点在する既存の井戸を活用するため、新たな井戸の掘削が不要でコストを少なくすることができる。また、地下水から熱だけを取り出すので井戸周辺の地下水量に影響を与えることもないという。

静岡県はまず、富士市内の企業の排水処理管理事務室と富士宮市の土産物店舗の2カ所をシステムモデルとして設置し、このシステムに適した場所を示す「導入適地マップ」を作成するなどしながら、まずは、富士山周辺の工場などへの普及を図り、将来的には一般家庭での利用に至ることを目標としている。

静岡県環境衛生科学研究所の村中康秀氏は「富士山の地下水を活用した熱交換システムは、特に夏場に適したものだと言えます。同じ静岡県内でも、富士山から少し離れた静岡市の水温は15から20度の間で変動し、時には20度を越えることもあります。一方、富士山の麓に位置するこの地域の水温は、年間を通じてほぼ15度で一定しています。また、川の水で地下水が薄まり水温が変動してしまうようなこともありません。何より、水の量が非常に豊富であることが最大のメリットと言えるでしょう」と言う。「将来的には、工場が持つ既存の井戸を利用してエネルギーを生み出し、近隣の住宅や商店、病院や介護施設など地域全体で共有し合えるような環境作りができたらと考えています」と夢を語る。

富士山周辺に点在する井戸は、時代の変化に伴い現在では使用されないまま残っているものが数多く存在する。このシステムを導入するにあたり、このような地域特有の現状を生かし、エネルギーを地産地消できる新しいまちづくりが進んでいくことが期待される。

静岡県くらし・環境部の久保田克哉氏は「静岡県は水に恵まれた場所であるという認識はあったものの、これまで単に水は水としか捉えていませんでした。しかし今回、独自の性質を持つこの地下水からエネルギーを生み出すという新たな関わり合いを見出したことで、今後はこの豊富な水を環境対策や省エネルギーといった別の視点からどんどん活用していかなければならないと考えています」と語る。

富士山が生み出す豊富で良質な地下水は、時代の在り方とともにその用途も変化してきた。しかし昔も今も変わらず、富士山と共存する人々の暮らしを豊かにしてくれている。



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