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Highlighting JAPAN

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水と生きる

日本の森を育む

サントリー「天然水の森」プロジェクト(仮訳)



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良い水がなければ良い飲料をつくることができない。日本を代表する飲料メーカーのサントリーでは、創業当時から水に支えられてきたという思いから、水の持続可能性の実現のために、「天然水の森」と名付けた森林整備活動を行なっている。 

いまから90年以上前、創業者の鳥井信治郎が日本初の本格ウイスキーの製造に挑戦した際、まず最初に取りかかったことが水探しだった。通常、多くの飲料企業は工場建設に際しては原料や製品の物流といった「利便性」が考慮されるが、鳥井信治郎はそれよりも「水源」にこだわった。サントリーでは現在も、ウイスキー、ビール、ミネラルウォーターの製造に良質な地下水を使用しているが、その地下水はもとをたどれば豊かな森で生まれる。そのような背景からサントリーは「工場で汲み上げる量を上回る地下水を生み出すために、豊かな森を育む責任がある」と考え、2003年に「天然水の森」プロジェクトをスタートさせた。同社エコ戦略部部長の内貴研二氏は、「100年にわたる経営の原点は『自然との共生』であり、将来を見据えて地下水を守っていくことがサントリーの責任です」と語る。

今年で11年目を迎えた「天然水の森」プロジェクトは、13都府県17カ所、7,600ヘクタール超の森林において、大学など研究機関とともに生態系の保護活動を行っている。

同社で水源涵養を担当する三枝直樹氏は、「1960年代には、戦後復興さなかの経済的必要性に迫られ、自生していた多くの固有種が、ヒノキやスギなどの針葉樹に植え替えられました。その結果、樹木が密集する森ができてしまいました。ところが、建設ブームが下火になると、間伐作業が疎かになり、密集した枝葉に太陽光が遮られ、下草に十分な光が届かなくなり、生態系が崩れて土壌の保水力が衰え始めます。これらの森において20年から30年後の将来が楽観視できない状態まで進行してしまったのです」と説明する。

サントリーは天然水の森を所有するのではなく、国や自治体等と協定書を交わし、30年単位で森林整備を行っている。指定された保護地区はまずいくつかのゾーンに分けられ、研究者が1メートル四方ごとに入念に調査することにより評価が行われる。鹿の生息数や草の生えた領域の広さなどの指標を用いて各ゾーンの全体的な健全度を評価する。

計画に基づく間伐や枝打ち作業、植林前に行う土壌や植生の調査、そして航空レーザー測量システムの利用等を進めたことで、生物多様性が確保され、徐々に健全な森へ再生されてきている。2013年には日本各地で記録的な豪雨があったが、天然水の森では土砂崩れの発生率が減少する傾向が見られた。実績のある40人近い研究者が、これらの地域で取得された膨大なデータの解析に積極的に関与し、将来の森林管理技術の基盤となる研究に熱心に取り組んでいる。

サントリーは2012年末、2020年までに水源涵養面積を12,000ヘクタールに拡大することを決め、新たに国内工場で使用する地下水量の2倍の水を涵養することを目標に掲げた。内貴氏は、「都市部に住んでいる方が美しい山々に足を運ぶことは難しいかもしれませんが、日々の生活の中で、自分の日常に必要なものがどこから来ているのか時折考えてみることで、環境に対する意識が変わるのではないかと思います」と語る。



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