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Highlighting JAPAN

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科学と技術

治療不能から治療可能へ

分子追跡ががん治療を進化させる(仮訳)



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日本の総合科学技術会議 (CSTP) は、2009年に最先端研究開発支援プログラム (FIRSTプログラム) を立ち上げた。このプログラムには大きな目的がある。それは、5年間で各分野で世界のトップを目指しつつ、幅広い分野における最新の研究を進歩させることである。

医学博士、白土博樹教授は、このプログラムに選ばれた30人の主要研究者の一人である。北海道大学大学院医学研究科の放射線治療医学分野で教授を務める白土氏は、これまで治療不能だったがんを治療可能にする放射線治療技術の開発を目指している。

「現在の放射線治療の90%はX線を用いて行われます。ですが、X線治療では3cm程度の腫瘍までよく治せますが、これより大きい腫瘍では治癒が難しい場合があります」と白土氏は説明する。これはX線が標的を貫通するので、がん細胞の下にある健康な組織を傷つけることが避けられないためである。つまり、標的が広い場合や動いている場合には、健康な細胞に与える損傷が大きくなることを意味する。

X線よりも制御しやすい陽子線治療は、比較的痛みがなく、健康な臓器の機能や組織に損傷を与えるのを防ぐことができるため、関心が高まっている。陽子線治療では、水素の原子核中の陽子を高速度に加速し、腫瘍に照射する。白土氏によれば、この技術を用いることで「6cmを超える大きな腫瘍もX線よりも安全に治療することができます。ただし組織が呼吸などで動いている時は、陽子線でも対処するのは難しかったのです」とのことだ。なぜなら、動いている腫瘍に照射するには、ピンポイントに当てる正確さが要求されるためである。

白土氏が取り組もうと決めたのはこの問題についてである。「動く腫瘍を動かない腫瘍と同じくらい簡単に治療できるようにすることを目指して、30代の頃に動く腫瘍に関する研究を始めました。そして、陽子線治療と、同じ頃に開発されていたロボット技術を組み合わせ、大きく、かつ呼吸などで動いている癌も治すいうアイデアを思いつきました。コンピュータによるパターン認識がその最善の解決法であるように思われました」と白土氏は語る。この技術革新は、人間による操作を必要とせず、優れた精度で放射線を照射することを可能にした。

その結果は、現在白土氏が分子追跡陽子線治療装置と呼ぶものとなった。この装置は、スポットスキャニング及びがん細胞のリアルタイム追跡を用いた陽子線治療により、大きながんや動く腫瘍を治療する。「これは肺がん患者の5年生存率を現在の10%から30%に向上させます」と白土氏は述べる。

主な技術的課題は、体内のがんをコンピュータを用いて特定することだった。白戸氏によれば、「実際、空気に囲まれた肺がんをみつけるのはまだ簡単」だという。なぜなら、空気とがん細胞とはまったく異なる成分だからだ。「しかし肝臓のように水分の多い臓器の中のがんを特定するのは極めて困難です。これは、がんも正常組織も、ほとんど同じ成分だからです」と白土氏は説明する。

この問題は、がん細胞を体に無害な金属片 (2mmの金製マーカー) でマーキングすることによって解決した。「私達はプロジェクトの途中で、機器ががんを正確に視覚化できるようにするために、この新しい技術を開発しなければなりませんでした。」

分子追跡陽子線治療装置は、北海道大学と日立製作所の5年間の共同研究開発から生まれた。今後の課題は小型化と、世界中でより幅広く利用可能にするためのコスト削減であるが、白土氏の研究はすでに、がん患者の治療にもう一つの効果的な選択肢を増やしたことになる。白土氏自身、日本で医療機器承認を得た後、2014年3月にこの機器の臨床使用を行うことを計画している。「実際、米国で最高の病院の一つであるメイヨー・クリニックが我々の機器をすでに購入しています。」

白土氏の医師としての望みは、「全てのがん患者を救うこと」だと言う。この革新により、彼は目標の実現に一歩近づいた。



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