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Highlighting JAPAN

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国際協力60周年

市民の平和を守るカンボジアの法整備支援(仮訳)




1970年代後半のポル・ポト政権により、あらゆる知識階層が大虐殺されたカンボジア。法曹分野においてもポル・ポト政権下を生き抜いた弁護士や司法官はわずか10人にも満たなかったとわれ、大量の人材とともにそれまでフランスの法律に基づいて作られていた法そのものもすべて失われた。

90年代に入り、政情が安定した後、急きょ各種法制度を新たに構築しなければならなかったカンボジア政府は、隣国ベトナムで法整備支援を行っていた日本に対して支援を要請。JICAでは、市民生活の土台となる民法・民事訴訟法などを整備する「法整備プロジェクト」を1999年よりスタートさせた。

このプロジェクトでは、法・司法分野のJICA専門家、法学研究者や経験豊富な実務家などが協力し合い、現地の法規範や慣習を精査した上で起草にあたった。例えば不動産登記の場合、日本では建物も独立の財産として登記されるが、カンボジアでは土地と建物を一体として捉えるなど、日本とは異なる背景や考え方を持つ部分については、その運用方法まで含めて現地の人々と話し合いながら起草作業を進めた。さらにカンボジアの今後の発展も考え、売買に関する国連のモデル法などを参考にし、国際社会に対応できる法律であることも意識して作られた。

まずは民法・民事訴訟法から始め、約20の民事関連法のドラフトを起草。次に、この法案を国会で通過させるための法案説明などの支援を司法省の幹部に行い、2007年までに民法・民事訴訟法が成立。そしてついに2011年12月からカンボジアの新民法が適用された。

プロジェクトに長年関与しているJICA専門員で弁護士の磯井美葉氏に起草時の苦労を伺った。「日本の法律の専門家たちが起草の支援をしている法律なので、日本の民法・民事訴訟法にかなり近いとは思います。しかし、風習や考え方の違いなどを十分に考慮しながら、現地の人たちと一緒に一条ずつ作っていきました。現地スタッフにとってもただでさえ難解で新しい法律用語の一語一語をカンボジア語に当てはめる作業には大変苦労しました。カンボジア司法省には歴代の日本人法律専門家が十年以上にわたり駐在しましたが、『日本の支援は法律や制度の背景まで丁寧に説明してくれるので勉強になる』ととても頼りにしてくれました」。

もちろん法律ができれば終わりではない。1305条にもおよぶ民法の条文をしっかりと体系づけて理解し、それぞれの問題に対処していける人材の育成が不可欠となる。そのため法整備と並行して、法律の実務家や専門家などの人材育成にも注力してきた。

プロジェクト当初から法案起草に関わった司法に精通した現地の人々は、司法省の高官などの地位に就くが、実務レベルで司法に携わる人材は不足していた。そのため、弁護士、裁判官や検察官などの司法官、さらに次世代の法曹を教育する大学教員まで、カンボジアの人々が自立的に法を運用することを考えた支援を実施した。こうした取り組みにより、弁護士700人以上、裁判官や検察官といった司法官200人以上が誕生した。

将来的には、社会の実情に合わせて法制度を修正することも必要になる。そのときに中心となって法整備に対応できるような人材育成についても引き続き支援していく予定だ。

いつまでも人々が安心して暮らせる社会のために法律とその適切な運用は不可欠である。今回の支援では、法整備を通じ、将来にわたってカンボジアの平和を支援したといえるだろう。



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