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Highlighting JAPAN

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海外で活躍する日本人

地酒の繊細さを伝える

菊谷なつき氏(仮訳)



ロンドンを拠点として日本酒の技術に関する教育やPR活動を行う事業、Museum of Sakeの代表である菊谷なつき氏は日本酒のソムリエだ。高級レストランでは、客たちがワインと料理のマッチングをソムリエに相談するという習慣がある。菊谷氏やその他の日本酒ソムリエたちが、日本酒を日本料理という枠の外にも浸透させたおかげで、レストランの客たちは今、日本酒という新たな選択肢を享受できるようになった。

日本酒ソムリエという職業と、その日本酒に関する深い知識は、秋田県にある350年以上の歴史を持つ蔵元に生まれた菊谷氏にごくふさわしいものであるように思われる。しかし、日本酒ソムリエになることは全く思いもかけなかったと菊谷氏は言う。アメリカのカレッジを修了し、日本に戻って就職した後も、まだ日本酒にさほど関心があったわけではない。東京の人事コンサルティング会社に勤務していた頃、祖父が突如体調を崩したことが仕事について考え直すきっかけとなった。
 
菊谷が最初に思ったのは、日本酒の仕事に携わることで蔵元を営む家族に恩返しがしたいということだった。仕事を辞め、東京の日本酒小売店で働きながら日本酒の世界を深く探求し始めるようになった。その経験から得たものは計り知れないという。日本各地の様々な日本酒を試飲する機会に恵まれ、熱心な同僚たちから学んだことをノートに記した。「すぐに日本酒の全てが好きになりました」と菊谷は言う。

その後、利酒師(日本酒のソムリエ)の資格を取得し、菊谷氏は当時まだアメリカほど日本酒が浸透していなかったイギリスに渡る決心をした。ロンドンの有名な日本料理店Zumaで働き始め、数年後にはその姉妹店ROKAの主任酒ソムリエとなる。菊谷が着任した最初の年に日本酒の売り上げが2倍になった。

菊谷氏はロンドンの人たちと、もっと広いスケールで日本酒への愛を共有したいと思った。そして2013年にMuseum of Sakeを立ち上げた。ここでは幅広い層の一般の人々や食品業界を対象とする様々な特別イベントや講座を通じて、日本酒で日本とイギリス、ヨーロッパを繋ぐ活動を行っている。今はまだバーチャルな博物館だが、将来日本酒の歴史やそれに携わる人々、日本酒の食文化を紹介する本物の博物館を開くのが菊谷氏の夢である。

菊谷氏の主な目標の一つは日本酒の多様性を知ってもらうことである。寿司などの日本料理に合うことはすでに知られているが、日本酒が日本料理以外とのマッチングにも適しているとの確信が菊谷氏にはある。実際、Museum of Sakeが企画した日本酒をインド料理や白トリュフとマッチングさせるイベントはすぐに予約でいっぱいになった。

菊谷氏はイギリスやその他のヨーロッパの国の人々が、日本酒の背景となる話に特に関心を持っていることに気づいた。「彼らは歴史や技術、地域について知りたがります。これらを全て知ることで品質に対する信頼感が得られるのです」。ヨーロッパの人々が背景を重視するのは、ヨーロッパに深く根ざすワイン文化によるものだと菊谷は考える。

そのワインの世界でも日本酒への関心が高まっている。インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC) が2007年に日本酒部門を創設し、菊谷は2011年にIWC日本酒貢献者賞を受賞、その後日本酒部門の審査員も務めている。さらに、世界62カ国に提携する英国のワインの教育機関Wine & Spirit Education Trust(WSET/ダブリューセット)にて、2014年8月に新設されたばかりの日本酒講座では、立ち上げ責任者として英国での講師も担当している。

日本酒の歴史とその奥深い魅力を世界に伝えたいという菊谷氏の努力はまだ始まったばかりだが、その困難に立ち向かう覚悟はできている。「日本酒はワインと同様豊かで複雑なものです。すべての日本酒の瓶の裏側には独自の世界と文化があります」と彼女は言う。日本酒が海外で人気を獲得することで、豊かな日本文化への理解が一層深まるに違いない。

 



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