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Highlighting JAPAN

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明日をつくるベンチャー企業

起業家本能を呼び起こす

幸小学校のキャリア教育プログラム(仮訳)



ベンチャーは人材がいなければ生まれない。日本におけるベンチャー支援は、支援策や制度のみを作るのでなく、挑戦する人を増やそうという意識改革への動きがある。なかでも近年注目されているのが、将来のキャリアの選択肢の一つとして起業を考える子どもを増やす試みである初等教育からの起業家教育だ。

2006年に、大阪府の和泉市立幸小学校の教頭 (現校長)、上野泰久氏と教師たちは、子どもたちにやる気を起こさせ、学校の名前のとおり幸福度を高める方法を学校で探求し始めた。この学校の名前には「幸せ」という意味である。彼らが立ち上げた「キャリア教育」と呼ばれる起業家教育プログラムでは、子どもたちに非常に有益な生きるスキルを教え、またビジネスにおける成功がもたらす喜びや達成感、自尊心だけでなく、困難やストレスなど実世界の労働環境にあるものを知る機会を与える。上野氏らは、教育の目的は子どもたちが幸せに生きるための力と、人を幸せにするための力をつけることだと信じている。

キャリア教育は、5年生のカリキュラムの一貫で、学年の後半に実施される。これはユニークな「模擬労働」に挑戦する極めて現実的なプログラムである。実際に起業した専門家たちが参加し、子どもたちは会社経営がどのようなものであるかについて、また会社の仕組み、取引関係の扱い方、財務処理など各業務課程の詳細に取り組まなければならない。その他デザイン、マーケティング、販売、市場調査などの側面的な業務についてワークショップを行う。

「このプログラムを通じて子どもたちは自分の仕事に誇りを持つ大人たちと出会っています。」と上野校長は述べる。「このようなロールモデルは子どもたちの職業観に素晴らしい影響を及ぼします。子どもたちと大人のこのような出会いの機会を作ることは私のミッションのひとつです。」

子どもたちは販売する製品を作るために、地元の企業とやりとりをする。地元で製造されているガラス細工、人造真珠や地元の綿産業による綿のハンカチ・タオルなどを用い、子どもたちは、自ら行った市場調査に従い、開発する様々な製品をデザインする。子どもたちは何をいくつ製造するかを決定した後、選ばれた納入業者に発注する。さらに子どもたちは複数の部署のある会社を立ち上げる。その後、教師たちが子どもにインタビューを行い、それぞれのスキルと性格に応じて最もふさわしい部署に配属する。

会社の最初の任務は商品を製造するための資金を調達することで、その後商品のマーケティングや販売を行う。近所の人に声をかけるなどして先行予約の顧客にできるだけ多く販売し、残りを地元のスーパーで通常は1日のうちに販売し切る。このプログラムの目標は全在庫品を販売することではないが、ほぼ毎年完売しており、これは子どもたちが頑張る大きなモチベーションになっている。

収益は学校の設備の改善や備品の購入等に使われる。また2011年の東日本大震災の後、幸小学校は、被災地支援の活動資金のためにその収益を石巻市の大谷地小学校に寄付した。

幸小学校の子どもたちはこの授業で経営技術以上のものも会得する。プログラムの後では子どもたちの態度が著しく変わり、よく会話をするようになり、礼儀正しく、その振る舞いに自信が見られるようになると教師たちは言う。「プログラムの実施前と実施後に、自分自身についてどう感じるか子どもたちに質問します」と昨年のプログラムを担当した葛城有理子氏は述べる。「最初は自分自身を好きではないように見える子どもたちもいましたが、自分の得意なものや好きなものを発見することで、自分自身を好きになってゆきます。」

上野校長も幸小学校の教師たちも、子どもたちがこの授業で学んだことを中学や高校へ進学しても忘れず、いずれはそれを用いることで成功し、自分の生活を改善するだけではなく、家族やコミュニティーの生活も向上させることになると信じている。



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