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Highlighting JAPAN

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海外で活躍する日本人

グランドデザイン

日本の土木技術力を海外へ伝える阿部玲子氏(仮訳)



「トンネル掘削中の坑内は女人禁制。山は女神に支配されており、女性が入ると嫉妬してトンネルが崩壊するかもしれない。」1990年代初頭ですら、日本のトンネル工事の世界ではそんな言い伝えが信じられていた。そのため、阿部玲子氏は土木工学修士号を持つ技術者であっても、トンネル工事現場へ足を踏み入れることは許されなかった。

阿部氏は、海を挟んで九州と向かい合う山口県で生まれた。幼い頃に父親に連れられて関門海峡を見に行った際に「土木の専門家がこの下を通っているトンネルを作ったんだよ」と聞かされたことが今も心に残っていた。彼女は大きいものを作りたいとの思いから土木工学を志し、女性として初めて山口大学工学部を卒業した。その後、神戸大学大学院でトンネル工学を修めた。その後、社内初の女性土木エンジニアとしてとしてゼネコンへ入社した。

しかし、女性はトンネル建設の現場で働くことができなかった。阿部氏はこの状況を打破するために社内の海外留学制度に応募し、「私を選んでください。損はさせません」と主張した。

その熱意が買われ、彼女はノルウェー工科大学に留学した。修士号取得後、研修先となった欧州最北端ノースケープで、阿部氏はついにトンネル建設現場に入ることができた。海外であればトンネル建設ができると確信したという。

帰国後は、台湾新幹線トンネル建設現場で品質管理担当を任された。次に彼女は建設コンサルタント会社に移り、インドに向かった。担当したのは、まずインドの国家プロジェクトであり、日本の円借款事業でもあるデリー・メトロのプロジェクト、次に同じく円借款事業であるバンガロール・メトロのプロジェクトだった。

女性が土木分野に参加することは、インドでも難しい。建設現場に来た現地公社のインド人幹部は、約4万人の作業員を擁する現場でトンネル専門家として出てきた阿部氏を指して、「あの人は男性か、女性か」と秘書にそっと尋ねたという。それくらい、女性が土木の現場の、まして責任者の立場にいるということは信じられないことだったのだと阿部氏は笑いながら当時を振り返る。

阿部氏は建設現場に日本の最新技術を取り入れ、開発途上国向けの安全・環境システムを開発した。例えば、バンガロールでは山口大学が開発した現場の粉塵量をスマートフォンで計測するプログラムの使用を導入し、バンガロール・メトロの総裁から「ベスト・セーフティー・アワード」という表彰を受けた。2014年3月に彼女は開発途上国における環境向上をテーマにして博士号を取得した。

現在、阿部氏が勤務する建築総合コンサルティング会社、株式会社オリエンタルコンサルタンツグローバルは、世界140ヶ国以上に地下鉄、道路、上下水道、空港・港湾等のさまざまなインフラへのコンサルティングを実施している。カタール国のどこに道路を作り、鉄道を通し、空港を作るかなどを計画する壮大なプロジェクトもある。かつて「大きいものを作りたい」と志した少女は、まさにそのようなキャリアを手にした。

阿部氏は2014年10月からオリエンタルコンサルタンツグローバル社のインド現地法人社長になった。彼女は、日本の優れた技術力や安全・品質管理を総合力として世界に伝えていくというプロとしての使命を成し遂げ続けている。また、勇敢で自立した新しい世代の女性を育てるために、日本だけでなく、インドの大学でも講義を行っている。

 



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