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Highlighting JAPAN

ロボットインテリジェンスで革新を目指す

“自律的に考える”産業用ロボットを可能にした、東大発のベンチャー企業MUJIN。スタッフのほとんどが外国人という同社が日本市場でのビジネス展開に至った理由に迫る。

東京大学発ベンチャーのMUJINは、従来の方法では人が教えたことを繰り返すのみであった産業用ロボットに自ら考える能力を与える画期的な技術を発明した会社だ。CTO(最高技術責任者)兼共同創業者のアメリカ出身、デアンコウ・ロセン氏が開発したロボット動作アルゴリズム「OpenRAVE」をコア技術に、知能ロボットコントローラ「MUJINコントローラ」を中心とする高付加価値製品を開発、販売する。この技術があれば、わずかな情報を入力するだけでロボットが自動的に最適な動作を算出できるようになる。

共同創業者のCEO滝野一征氏とともに設立した同社は、東京大学にほど近い文京区・本郷にオフィスを構え、スタッフ15人あまりのうち11人は外国人。米国、中国、インド、ウクライナ、ブルガリア、ポルトガルに日本を含む7カ国の国籍からなる国際色豊かな環境で革新を目指している。

MUJINの技術の中でも「ピックワーカー」と呼ばれる3次元バラ積みピッキング(箱の中の複数の対象物がバラバラに積み重なった中から一つ一つ個別に把持して,別の場所に移動させる作業)知能システムは、大手自動車関連企業や大手物流企業を筆頭に数十社の企業に納品し、これらの実績を徐々に積み上げ、MUJINブランドは確立され始めているといえる。

「私たちの技術は、すでにロボットメーカーなど日本を代表する製造企業で導入され、満足いただいています。現在、弊社が得意とする分野で技術的な競合他社はいませんし、今後も私たちのようなスタイルでの競合はないでしょう」と、デアンコウ氏は柔らかな口調の中に確かな自信を覗かせる。

米国カーネギーメロン大学で博士号を取得した彼が日本を目指し、日本語を独学で習得したのは「カーネギーメロンでの恩師である、ロボット工学の権威、金出武雄教授の影響はもちろん、日本の“クレイジー”とも思えるほど高度な技術に すっかり魅了されたから」。

移民労働力が豊富なために「ロボットは人間の仕事を奪う」と産業用ロボットへの抵抗が強い米国とは異なり、日本企業が製造業の最前線にロボットを積極的に導入し、素晴らしい生産性を上げているのを見て「少子高齢化で生産人口の減少を迎えている日本はロボット技術への理解も高く、受け入れる土壌がある。過去の米国での日本車メーカーの急躍進がそれを示している。ロボット分野なら日本だ」と考えたのだという。

「今後、世界展開を視野に入れて自分たちの技術をブランディングしていくとき、有利になるのは『日本』での導入実績である。それは日本の自動車を中心とした製造企業が世界で信頼され、ブランド力を持っているから」と語るデアンコウ氏。

外国人ばかり、それも世界の一流レベルの才能が集う同社では、意思決定のスピードも早い。事業化するまで彼がポスドクとして籍を置いた東京大学エッジキャピタルとジャフコからの投資も受け、早ければ3~5年後のIPOを目指し、事業規模を拡大して、欧米諸国やアジア諸国へと進出していきたい、と成功の道筋を描いている。

「技術が社会を豊かにする。ソフトウェアの力で、世界中の産業用ロボットをより簡単により便利に使えるようにする。それによってより良く安いモノが提供され、世界中の人々の生活と生産性を向上させるのです」とデアンコウ氏は信じている。

日本の企業社会の厳しさにも触れつつ、日本の製造業界の技術改善への熱意には打たれるものがあるという。「その中で、多国籍文化を維持するのが自分の役目。私たちの活動で、人工知能の大切さに対する関心を高め、業界の技術を次世代へと推し進めることです」と自負するデアンコウ氏。10、20年後には全ての工場にMUJINコントローラが導入されているのが目標だと語った。