Home > Highlighting JAPAN >Highlighting Japan February 2016>科学技術

Highlighting JAPAN

強度を備えた細い手術針

顕微鏡による特殊な外科手術では、平均的な髪の毛より細い0.1ミリ以下の極めて細い手術針を使う。こうした極小手術針において世界最小を実現し、医療現場から信頼を寄せられているのが河野製作所だ。

細い血管やリンパ管を顕微鏡下で治療する「マイクロサージェリー(微細外科手術)」。0.5ミリメートル程度の細い血管を縫合するときには、直径0.1ミリメートルの手術針を使うが、従来の針では0.5ミリメートル以下の組織を治療できない。そこで、医療現場からの「もっと細い手術針を」というニーズに応えて、世界最小となる直径30マイクロメートル(0.03ミリメートル)、全長0.8ミリメートルという超微細な手術針を作り出した日本のメーカーがある。元は時計の針などを製造していた微細加工部品メーカーの河野製作所だ。マイクロサージェリー用手術針の国内シェアは60%。70マイクロメートル以下の手術針では、ほぼ全て同社製品が使われているという。

手術針が細くなれば、それまで治療できなかった部位の手術が可能になる。実際、切断された赤ちゃんの指先の再建手術において、微細な血管や神経を縫い合わせ、最小限の傷口で機能を回復させることに役立った。また、指定難病のひとつである脳血管障害のもやもや病についても、手術で治療できるようになった。

とはいえ、30マイクロメートルともなると、もはや針というより糸と呼べる細さ。その上で、どのようにして生体組織に突き刺して縫合できる強度を持たせるか。しかも、針には糸を通す必要があり、先端は尖っていなければならない。そこで同社では、微細加工に適した特殊なステンレスを作るところから始め、加工する治具、研ぎ器、工具のひとつひとつまで、製造に関わる全てを手作業で行った。針に糸をつけるときには、針の根元部分を半分に割り、その窪みに糸を挟み込んだ。

だからといって、熟練の職人技だけに頼らないところに河野製作所の“ものづくりのプライド”がある。「超微細手術針の製造工程には手作業も多いですが、誰でも均質なものを作れるようにアイデアを出し、そのための装置をつくるところも含めてのものづくりだと考えています」と、同社代表取締役の河野淳一氏は話す。量産可能な製品は量産することで価格を下げるが、「その製品を必要とする患者さんがたとえ一人であったとしても作れるようにしておきたい」と、完全オーダーメイドのラインと両立させている。

加えて、日本全国の中小企業が持つ特殊な技術や、大学の工学部に埋もれている研究成果を発掘することにも力を注ぐ。医療現場の幅広いニーズを知っていることを強みに、日本発の技術を組み合わせ、医療に役立つ製品作りを行っているのだ。

2011年には中国で医療機器の承認を取得し、中国市場にも積極的に参入している。東南アジアやヨーロッパでも同様の取り組みを進めているが、「日本の製品を海外で製造販売するのではなく、その国の医療ニーズに合った機器を日本の技術で製品化したい」と河野氏はいう。

再生医療や移植医療の進化に伴い、産婦人科や眼科、耳鼻咽喉科など、外科以外の領域でもマイクロサージェリーが行われるようになり、極小手術針への期待もますます高まっている。しかし、市場の成長以上に「それまでになかったものを作り、お医者さんや患者さんの役に立つことが一番のやりがい」と、ものづくりの現場から医療に貢献することに意欲を燃やしている。