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Highlighting JAPAN

人々が集う旅館

バルトロメウス・グレブ氏と妻の千佳江さんは、四国の西沿岸の町にある人気の日本旅館を運営している。国登録有形文化財としてのステータスや、そこを拠点とする活動は地域活性化につながっている。

愛媛県宇和島市にある木屋旅館は有力政治家や文豪も宿泊した、1911年創業の木造2階建ての老舗旅館。老朽化のために1995年に廃業したが、後に宇和島市が建物を購入し保存した後、2012年4月に数十名の有志で設立された会社によって新たにオープンした。

今、木屋旅館は、日本人はもちろん外国人観光客の人気を集めている。

再生にあたっては、伝統工法による建物の佇まいはそのままに、内装には新しい意匠が盛り込まれた。2階の畳の一部を取り外してアクリル板を敷き詰めるなど、単に古いものを残すのではなく、そこに新しいデザインを融合させている。2014年には登録有形文化財に指定された。

この木屋旅館のセールス&マーケティングマネージャーを務めているのが、ポーランド生まれ、ドイツ育ちのバルトロメウス・グレブ氏。妻の千佳江さんとともに、独自のマネージメントを展開している。彼はクールジャパン・アンバサダーにも任命されている。

「日本の文化に惹かれるようになったのは、9歳の時にドイツのフライブルグに移り住み、空手を習い始めたのがきっかけです」とグレブ氏は語る。フライブルク大学在学中、2005年10月から姉妹都市である松山の愛媛大学に1年間留学したことで日本に対する関心がいっそう深まり、卒業後、「日本の文化の深さをもっと知りたくて」再び松山に移住。英語やドイツ語の教師をしながら勉学を重ねていた時に、宇和島市が木屋旅館のマネージャーを公募していることを友人から紹介された。

「この仕事自体が深い学びの場になると思ったのが、公募に参加した大きな動機です。面接で“旅館の仕事で何が一番大切か”と聞かれた際、私は“心”だと答えました。お客様に対する私の接し方は、自分の家に友達が遊びに来た時と同じです。“来てくれてありがとう”という気持ちを、可能な限り形にしてお伝えしています」

木屋旅館は最小2名〜最大10名まで1組限定で借り切るシステムを取っている。旅館をどう使うかはゲストの自由で、宿泊しながらワインのテイスティング会やコンサートを開いたり、ハワイから家族を招いてここで結婚式を挙げたアメリカ人と日本人のカップルもいる。

「木屋旅館ならではの雰囲気を楽しんでいただくことはもちろんですが、さらにはお客様の好みをお聞きし、単なる観光名所ではなく、それぞれの好みに相応しいスポットやお店をご紹介しています。何よりも地元の人との触れ合いを楽しんでいただきたいですし、そこから様々な物語が生まれてきます」

グレブ氏は地元の人も知らないような、あるいは日常的に接し過ぎてその良さに気づかないような魅力的なスポットを自分の足でいくつも見つけ出し、ゲストの好みに応じて紹介している。市の観光協会とコラボレーションし、宇和島の様々な魅力を紹介する「Uwajima Deep」というサイトも立ち上げた。木屋旅館を訪れる観光客は増加し続け、リピーターも数多い。木屋旅館に泊まるために宇和島を訪れる人も少なくない。

「単に観光客を呼ぶのではなく、地元の人が幸せになれる地域作りをしなければいけない。30年先を見据えたビジョンが必要です。木屋旅館は市民のものです。地元の歴史の一部なのです。将来的には地元の方が木屋旅館を守り続けて欲しいです。私は日本とヨーロッパを結ぶ架け橋になれるような役割を果たせればと思っています」