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Highlighting JAPAN

三味線に魅せられて

カメルーン生まれのワッシー・ヴィンセント・ジュニア氏は、東京を拠点とするバンド「Wouassi and Roots Band」で、独自のサウンドを奏でている。

7人構成の「Wouassi and Roots Band」は、ギター、キーボード、フィドル、コンガ、ベルなどを用い、アフリカのバンドの代表的な特徴を備えているが、ステージの中央でミュージシャンが奏でる音は、世界の音楽の中でもユニークであろう。それは、三味線と呼ばれる日本の伝統的な楽器によって特徴付けられている。

4人兄弟の末っ子であるワッシー氏は、音楽一家に生まれた。長兄がギタリスト、次兄とワッシー氏がドラマーである。ワッシー氏が最初に三味線と出会ったのは、1994年にドラムの演奏のために来日し、新内流の三味線の師匠を紹介された時であった。

「彼の演奏はまるで日本のブルースでした。それで三味線を習得したいと強く思い、新内流の家元である富士松菊三郎師匠に弟子入りしたのです」とワッシー氏は言う。「それ以来、浅草の稽古場に毎日通う日々が始まりましたが、まさかそのまま日本に住み続けることになるとは、夢にも思いませんでした。本当に運命というほかありません」

ワッシー氏は当初、新内流の三味線を思うように習得できなかったという。

「新内流のサウンドはとてもスピリチュアルなものです。どうやったら悲しい音が出せるのか、師匠に教わりながらひたすら練習を重ねました」

家元は、8年後の2002年にワッシー氏に技芸を習得したことを意味する「名取」を授け、「富士松ワッシー」の芸名を与えた。そして、「単に新内流を継承するのではなく、あなたの国のサウンドをミックスしたらどうだ」という助言した。この言葉が、それ以降のワッシー氏の音楽活動に多大な影響を与えることになる。

「三味線を通して自分の音を追究していく過程で、私の音楽のレベルはすごく変わりました。音楽にとって一番大切なのは“心”です。それがなければ、ただの音に過ぎません」とワッシー氏は言う。「三味線を始めて23年になりますが、15年ぐらい経った時、“三味線の気持ち”がはっきりとわかるようになりました。三味線のおかげで、音楽に対する考え方もドラムの演奏も大きく変わりました」

ワッシー氏は自らの演奏を「アフロ三味線」と名付けている。曲は全てワッシー氏の作曲によるオリジナルで、歌詞は日本語、フランス語、スペイン語など多岐にわたる。ワッシー氏と共にボーカルを担当するのは妻の奈緒子さんだ。ワッシー氏は奈緒子さんと居酒屋で出会った。ワッシー氏は歌謡曲を口ずさむ彼女の歌声に惚れ込んでバンドに誘い込んだ。

Wouassi and Roots Bandの演奏に触れた観客は最初、誰もが聞いたことにない音楽スタイルに驚くとワッシー氏は言う。しかし、やがて自然と手拍子が生まれ、その音楽に身をゆだねるようになるという。

教室でドラムを教えながら音楽活動を続けるワッシー氏の夢は、世界へと活動の場を広げていくことだ。

「以前、フランスにいる兄の誕生パーティの席で妻と演奏した時、大歓声を受けました」とワッシー氏は言う。「音楽の世界で成功することは難しいですが、やはり世界で演奏したい。心のこもった音楽に、国境はありません」