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Highlighting JAPAN

国境を越える居酒屋文化

新日の基は東京で最も魅力的な居酒屋の一つとして知られている。

日本ならではの飲酒文化を楽しむ上で欠くことのできない存在のひとつに「居酒屋」がある。様々な種類の料理やビールなどのお酒が安い料金で提供され、仕事を終えた人々が同僚と飲む場としてはもちろん、忘年会など、職場などの様々なイベントにも気軽に利用されている。日本の居酒屋はお酒も料理も同時に楽しむことができるとともに、老若男女の区別無く誰もが気軽に入れるのが特徴である。

有楽町駅近くの、数多くの居酒屋や焼鳥屋のある高架下の「新日の基」は、東京で最も知られた、そして人気のある居酒屋のひとつである。「新日の基」は連日満員で、店のことをシンプルに「Andy’s」と呼ぶ外国人リピーターも多い。

「新日の基」のオーナーはイギリス人のアンディ・ラント氏である。ラント氏は、1978年にイギリスに留学していた西澤栄津子さんと結婚。1986年、栄津子さんの祖父の代から続く老舗の居酒屋を継ぐために来日した。

当時は栄津子さんの父が店を経営しており、ラント氏は来日した翌朝から義父に連れられて築地市場に買い付けに出かけた。ラント氏はイギリスではレストランのマネージャーをしていたが、市場で魚を選ぶ経験は無かった。しかし、築地市場での買い付けやお店での接客を通して、日本語や居酒屋の経営能力を身に付けていった。彼は、2010年に義父から経営を引き継ぎ、「新日の基」をさらなる人気店へ成長させた。人気の最大の理由は、魚介類の圧倒的な美味しさにある。

「ぼくは築地に30年通い続けているから、それぞれの時期にどこで水揚げされたものがいいか、すべて把握しています」とラント氏は言う。「だから、新鮮でベストな魚介類しか仕入れない。とにかく、美味しいものを安く提供する。それがこの店のすべてです」

新日の基では、鶏の手羽、肉のステーキ、ソーセージなどの料理も楽しめるが、魚介類の料理がメニューの中心だ。例えば、刺身、焼き魚、ホタテ、アサリの酒蒸しなどである。非常に数多くの外国人客が店には訪れる。

「別に外国の方に向けて宣伝しているわけではありませんが、駐在員の方が口コミで伝えてくださるようです」と栄津子さんは言う「各国のガイドブックを見て来店なさる方も少なくありません。みなさん、美味しいと言ってくださるのが何よりです」

各テーブルには英語のメニューも用意され、店員はほぼ全員が英語を話せることも、この店の特徴のひとつだ。2階ホールのアーチ型の天井も、高架下ならではの、居心地のよく、少々騒がしい、独特の雰囲気を醸し出している。

「刺身、焼き魚、煮物、天ぷら、とにかくなんでも新鮮で美味い。その日のおすすめもアンディが教えてくれるし、例えば刺身の盛り合わせひとつとっても、イカやタコが苦手な人がいないか確認して臨機応変にアレンジしてくれる」と常連客のアメリカ人ビジネスマンは言う。「テーブルの間隔が近いから、初対面同士でも自然と話が弾んだりするのも楽しい。こんな和やかな雰囲気は、日本の居酒屋ならではじゃないかな」