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Highlighting JAPAN

水の知恵を共有する

沖縄県の水道事業体の専門家が、南太平洋の島国の独立国サモアで、水道供給技術の導入を支援している。

日本の水道事業はおよそ1,700の地方自治体によって運営され、水道の蛇口をひねれば、全国どこでも清潔な水を飲むことができる。水供給の技術や知識を海外に提供している自治体も多い。亜熱帯域に位置する約160の島々で構成され、水供給に苦労をしてきた沖縄県もその一つである。

沖縄県の宮古島は、川がなく、水源のほとんどを地下水に頼っており、自然環境を守るために薬品を使わないシステムが導入されている。「生物浄化法」と呼ばれるこのシステムは、砂の層に緩やかな速度で水を通過させ、砂の中で増殖した微生物に水中の有機物を分解させることで、濁りや細菌などを除去する浄化法だ。この方法は低コストで、維持管理も容易であり、生物活性の高い亜熱帯域では、より高い浄化効果が得られると言われている。

沖縄県は地域で培ったこれらの技術を活かし、気候も似通った南太平洋の島国、サモアに対して、国際協力機構(JICA)と協力し、水道事業の支援を続けている。大小9つの島からなるサモアの水道事業はサモア水道公社(SWA)が運営しており、総人口の85%に当たる約16万人に水を供給している。しかし、SWAは無収水率が高い一方、水質が一部基準を満たしていないなど様々な課題を抱えている。無収水とは、供給した水のうち漏水、水道メーターの不正確さ、盗水などの理由により水道事業者が料金を請求できない水のことである。

2006年から、沖縄県宮古島市が前述の生物浄化法による浄水処理運転能力の強化を支援、2014年からは、沖縄県の他の様々な水道事業体も参加し、5ヵ年計画で技術協力プロジェクト「沖縄連携によるサモア水道公社維持管理能力強化プロジェクト」(CEPSO)が首都アピアの中心部に水を供給するアラオア給水区を対象に、開始されている。

プロジェクトの大きな目標の一つは、プロジェクト開始当初、68%に達していた無収水率の削減であり、そのために様々な対策が行われている。例えば、配水管の位置、水道メーターの設置箇所などの情報をコンピュータ上で一元管理するマッピングシステム(GIS)の精度向上である。これは、漏水箇所の断定、管路の更新時の管路位置特定などに効果がある。

「SWAの職員は、プリントアウトした地図を片手に、漏水箇所や検針メーターをチェックして回りました」と、プロジェクトの開始から2016年12月までプロジェクトのチーフアドバイザーを務めた高良求氏は言う。「結果として、顧客リストになかった利用者の存在も明らかになるなど、地図の精度が大幅に向上しました」 沖縄からは、管路施工、配水管理、漏水探知、漏水修理、水質管理など数多くの短期専門家が派遣された。また、プロジェクトでは、SWAの職員を、これまでに2回、沖縄に招き、水道施設維持管理や無収水対策についての研修を実施している。沖縄からの帰国後、職員は報告会を開催し、他の職員と研修で得た知識や技術の共有を図っている。

2016年現在、無収水率は55%まで低下している。

「日本では20〜30年先を見越して水道工事を行います。サモアでも長期的な視点の重要性を力説し、様々な整備を進めました」と高良氏は言う。「漏水対策によって水圧も適正に保てるようになり、勢いの弱かったシャワーも快適に使えるようになりました」

水質が一部基準を満たしていないという課題ついても、様々な対策が実施されている。例えば、消毒のための塩素の必要量の測定、塩素を注入する機械の維持管理、浄水場の維持管理など幅広い支援が行われている。その結果、当初は水質基準の50〜60%しか満たしていなかった水質は現在、100%に改善している。(2016年10月現在)。

CEPSOに加え、日本の無償資金協力「都市水道改善計画」も実施された。この計画の下に、アピア近郊の3つの給水区を対象として、取水施設と導水管路の新設、改修、浄水場の建設などの工事が行われており、安全で安定した水供給に大きく貢献している。

「何よりも嬉しいのは、SWAの職員が皆で連携し、率先して課題に対処するようになったことです」と高良氏は言う。「プロジェクトの大きな目的である人材育成の成果が、目に見えて現れています。今後、プロジェクト対象以外のエリアにも、その成果が広がっていくでしょう」