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Highlighting JAPAN

 

「正射必中」のビジネス


ジェローム・シュシャン氏は自身の極めた弓道からビジネスへのアプローチに関するヒントを得ている。

日本の小売業で働いて30年以上になりますね。

私が初めて日本に来たのは1983年で、まだHEC(フランスの名門ビジネススクール)の学生でした。その頃私は禅に興味がありました。1986年から日本で働くようになり、最初はメレリオ・ディ・メレー(フランスのジュエリーブランド)にいました。その後、記念コインの販売のためフランス政府造幣局の日本本部を立ち上げ、その後にラコステの北アジア本部の責任者となりました。2001年からフランスでヘネシー(コニャックのブランド)に勤め、2005年には日本へ戻りリヤドロ(スペインの人形メーカー)の社長に就任しました。ゴディバに入社したのは2010年6月です。自分のキャリアを振り返ると、一貫して真の歴史を有し、リテールに注力している正統派高級ブランドで働いてきました。

日本におけるゴディバの歴史はどのようなものですか。

ゴディバの日本でのスタートは1972年、日本で初となる高級チョコレート企業として進出しました。ゴディバが日本で成功できたのは、先行者の優位性が理由です。現在、およそ300店舗を展開し、高級チョコレート市場でトップシェアを誇っています。日本に進出している他の海外の高級チョコレートブランドの店舗数はわずか10〜15店程度です。

ブランドの成長戦略はどのようなものを展開してきましたか。

過去5年間で日本での事業規模を倍増させてきました。それはすなわち平均すると、年率15%で成長するということです。チョコレート市場全体の成長率は年2%前後、経済成長率は年1%か2%です。当社では「アスピレーション&アクセシビリティ」という、明確なビジョンを掲げ、様々な施策を実行しました。「アスピレーション」とは製品、ブランドイメージ、店舗におけるサービスにおいて、高品質であるということです。「アクセシビリティ」とは、ゴディバ製品が、ご自宅の近所であれ、勤め先の近くであれ、お求めやすい場所に存在するということです。また、私たちは、「贈り物」のためだけでなく自家需要のために、品揃えを拡大してきました。ゴディバは複数の販売チャネルが可能でありながらブランドを守れるということを証明しています。

ご自身の著書『ターゲット』の中で、弓道の練習からビジネスの考え方を学んだと書いておられますね。

弓道には、「正射必中(正しく矢を射れば必ず命中する)」という考え方があります。西洋のアーチェリーでは、射手は何よりもまず自らの正確さに気を配りますが、日本の弓道の射手は「正中」に関心を払います。正しいフォームと正しい心構え(でいること)です。正しく射られれば、矢は当たるのです。私はこの考え方がビジネスにもあてはまると思いました。もし同じことをしたなら — 良い製品、良い消費者戦略、良い広告宣伝、良い店舗教育を一生懸命やって、射手が自分のフォームについてするのと同じように常に改善を心がければ、結果として的を射ることができるのです。

バレンタインが近いですが、忙しくなりますね。

日本においてバレンタインはチョコレートの最大の商機となります。これまでは女性から男性へ贈り物をすることが主体でしたが、今では女性が自分用のチョコレートを楽しんだり、「友チョコ」を友人や同僚にあげたりするようになりました。まさにチョコレートの祭典となったのです。しかし、日本でのチョコレートの消費量は一人あたり年間2キログラムと少なく、これに比べて、イギリスやスイスでは10キログラム、アメリカでは6キログラムです。チョコレート文化の魅力を広めることが私たちの目標です。

日本にいらっしゃる間、特に海外企業にとってビジネスの面で何が変わりましたか。

市場は消費者中心となり透明性が高まりました。25年前は、誰を知っているか、パートナーは誰か、誰からの紹介かということが大切でした。今は、製品の品質やサービスの提案が重要となっています。以前は業界が市場をけん引していましたが、現在は消費者が中心となっています。そこに、海外企業にもチャンスがあります。二つめの変化としては、東京を中心として国際化が進んだことです。日本で働く外国人が増えました。例えば、デザインや広告業界では海外からの優れた人材がより多く登用されています。三つめの変化は、現在の日本の消費者は世界で最も目が肥えているということです。日本の消費者はあらゆる時代を経験してきました。80年代にはステータスを得るためにブランド物を買いあさっていました。バブルが弾けた後は品質に関心を寄せ、選択眼を持つようになりました。そして、現在の日本人は製品の価格と品質を理解し、常に新しいものを探しています。弓道では、的は自分の鏡と言われます。的は嘘をつかないということです。つまり、うまく射ることができなかったら、それはフォームまたは心構えが悪かったということです。ビジネスでは、市場が自分の鏡であり、常に消費者が正しいのです。問題や困難は、消費者の変化に迅速に対応するために組織を修正する方法です。ゴディバでは、イノベーションを継続しなければならないということを知っています。

日本のチームは韓国とオーストラリアも担当していますね。

チームは仕事を楽しんでおり、業務は順調です。私たちのパートナー企業は日本での経験からも学びたがっています。日本には今よりもさらに地域のプラットフォームとなる機会があると思います。例えば、(ゴディバの高級)ソフトクリームは日本で誕生しましたが、中国で市場に大きな変化をもたらしています。日本では、ソフトクリームはゴディバにとって成功していますが、中国に導入したところ、大評判となりました。よって、日本は国内だけでなくアジアにおいてもイノベーションと新たな消費者トレンドの中心地となる可能性があると思っています。

注:インタビューは2017年2月3日に行われた。