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Highlighting JAPAN

言葉の壁を越える教育

神奈川県横浜市は、外国籍等の子どもが学校で、それぞれの言語能力に応じ、しっかりした教育を受けられる態勢を整えている。

徳川幕府が日本を統治していた江戸時代(1603-1867)、日本は海外との交流がほとんど行われていなかったが、1854年の日米和親条約がきっかけとなり、海外との貿易が本格化した。その時、開港した一つが横浜港である。横浜には外国人居留地が設けられ、明治時代(1868-1912)以降、海外の玄関口として発展した。横浜市に住む外国人はここ20年で2倍近くに増加し、現在は8万人以上にのぼる。外国籍や二重国籍、または保護者が外国籍の子どもの数も増加しており、市内の市立小・中・義務教育学校には、そうした児童が8400人以上(2016年5月現在)在籍している。

横浜港に隣接する京浜工業地帯に位置する鶴見区の横浜市立潮田小学校は、横浜市内でも有数の外国籍等の児童が多く在籍する学校のひとつである。同校における外国籍等の児童は全体の約2割を占める130人にのぼり、両親の出身国はブラジル、フィリピン、ペルー、ボリビア、中国、パラグアイ、韓国・北朝鮮、ミャンマーなど15か国に及ぶ。潮田小学校の児童が多国籍化した一つのきっかけは、1990年の出入国管理法の改正によって、海外在住の日系人に日本で働く道が広がったことである。

「当時はあっという間に、外国籍の子どもが増えたため、対応にとても苦労しました」と近藤浩人校長は振り返る。「日本語を充分に話すことができない児童も安心して教育が受けられるように、県と市は支援の制度づくりに取り組み、学校は試行錯誤しながらノウハウを構築してきました」

現在、神奈川県の制度として、外国籍で日本語の指導が必要な子どもが5人以上いる公立小中学校では「国際教室」を開設するための、専任の教師が配置される。また、横浜市からは国籍にかかわらず日本語指導が必要な児童数に応じて、非常勤の教員が最大3名まで配置され、母語ができる補助指導員が配置される学校もある。これらの制度を使って、同校では6名の教員が国際教室を受け持ち、1年生から6年生まで学年ごとに1人の教員が担当している。この「学年担任制」が、同校の国際教室の特徴の一つであり、先生と児童のよい関係が築かれている要因となっている。

「約30名の児童が一斉に授業を受ける一般のクラスと違い、国際教室は10人以内の少人数クラスのため、一人ひとりの理解に応じて授業を進めることができます」と近藤校長は言う。「授業内容は国語や算数など、その学年の教科と同じものですが、絵や図を多く用いて、教員がよりやさしい日本語でわかりやすく説明します」

まったく日本語が話せない児童が突然、入学してくることもある。その場合は日本語に少し慣れるまで、母語による教育支援も行っている。同校の場合、横浜市の支援を受けて鶴見区国際交流ラウンジという施設に依頼し、NPO団体等から必要な言語のスタッフを派遣してもらっている。1〜2例を除き、現在まですべての必要な言語をこの方法により補完してきた。

国によって言葉と文化のギャップは大きいが、子どもたちはたとえ言葉が分からなくても、すぐに一緒に遊び始める。日本語が分からず困っている子がいれば、同じ言語圏出身の児童を呼んでくるなど手助けしようとするという。こうした人と人との関わりが、児童の多文化共生教育につながっていると近藤校長は確信している。

「日本では、こうした子どもたちがますます増えていくでしょう。外国籍等の子どもたちに対応できる公立小・中・義務教育学校をさらに増やしていく必要があります」と近藤校長は言う。「今後は情報やノウハウを教育現場で広く共有し、外国籍等児童への指導と支援の充実を目指していきます」