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Highlighting JAPAN

 

日本の鉄道インフラを世界へ


奥田哲也・国土交通省鉄道局長インタビュー

近年、日本が鉄道インフラの輸出に力を入れている理由をお聞かせ下さい。

経済開発協力機構(OECD)の推計によれば、2009〜2015年の世界における交通・輸送インフラ需要は年平均3,880億ドルですが、2015〜2030年では、年平均5,850億ドルに増加すると予想されています。鉄道分野に限ってみても、年平均1,300億ドルから2,700億ドルへ増加することが見込まれています。

日本経済の活性化のために、日本政府は民間企業と連携してインフラシステムの輸出に取り組んでいます。昨年5月に政府が決定した「インフラシステム輸出戦略」では、日本企業が2020年に約30兆円(約2680億ドル)のインフラシステムを受注することを目指しています。

人口減少や少子高齢化により国内市場の需要が低下すると予想される中、世界のインフラ需要を取り込むことは、日本の企業にとっても、自社の成長や、技術力の維持・承継の観点からメリットがあります。

鉄道インフラの輸出を後押しするため、日本政府はどのような施策を実施しているのでしょうか。

鉄道プロジェクトは、事業費が巨額になることから、相手国からファイナンス面での支援を求められることが一般的です。日本は、国際協力機構(JICA)による円借款の供与や国際協力銀行(JBIC)による融資、海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)による出資など、相手国のプロジェクトに見合った資金調達スキームを提案しています。また、総理や国土交通大臣が自ら先頭に立って、日本の鉄道インフラの導入に向けて相手国政府要人に働きかけを行っています。

例えば、インドの「ムンバイ・アーメダバード間高速鉄道プロジェクト」では、プロジェクトの初期段階から、インド政府要人に対して新幹線システムの優位性を積極的にアピールするとともに、案件形成のための調査を実施しました。ファイナンス面においては、優遇条件での円借款供与を提案しました。そうした結果、2015年12月に日本・インド両政府が新幹線システムを整備することで合意され、現在、2018年の着工に向けて準備が進んでいます。

現在、日本政府が特に関心を寄せている案件は何でしょうか。

例えば、2026年の開業を目指すことでマレーシア・シンガポール両政府が合意した「マレーシア・シンガポール間高速鉄道プロジェクト」です。車両・システムの保有主体について、年内にも国際入札が開始される見込みであり、日本は官民が連携して受注を目指しています。

アメリカでは、ワシントンDC・ニューヨーク間を超電導リニアで結ぶ構想や「テキサス高速鉄道プロジェクト」、「カルフォルニア高速鉄道プロジェクト」に注目しています。ワシントンDC・ニューヨーク間の超電導リニア構想については、2016年度より日米両国が協調する形で具体化のための調査を実施しています。テキサスのプロジェクトは新幹線技術の活用が前提とされ、東海旅客鉄道(JR東海)が技術支援を行っており、2015年にはJOINが現地事業主体に出資し、事業化を後押ししています。カリフォルニアのプロジェクトでは、車両・システムの受注を目指しています。

このほか、タイでは、昨年8月に石井国土交通大臣とアーコム運輸大臣との間で、「バンコク・チェンマイ間高速鉄道」を新幹線システムで整備することを前提に、二国間の協力を具体化していくこと等を内容とする協力に関する覚書を締結しました。現在、日本政府はJICAと協力して、事業性調査をとりまとめるための作業を行っています。

日本の鉄道インフラの強みは何でしょうか。

まず挙げられるのは安全性・信頼性です。新幹線は開業以来52年間乗客の死傷者がゼロであり、平均遅延時間1分未満という正確性や、地震対策、環境性能等でも高い優位性があります。また、当初の整備コストだけではなく、トータルライフサイクルコストを削減することで、長期間にわたる費用削減を実現しています。例えば、新幹線は、定員1人当たりの車両の編成重量の軽量化、トンネルや高架橋などの土木構造物の小規模化により、建設・維持管理・運営コストを低減しています。このほか、沿線開発や駅ナカといった鉄道関連事業は、鉄道利用の需要喚起や、鉄道の価値向上に大きな役割を果たしています。

開発途上国の主要都市部においては、経済発展に伴いモータリゼーションが急速に進展し、環境問題や交通渋滞が深刻化しています。日本の鉄道インフラは、こうした課題の解決に貢献できます。また、沿線開発等の鉄道関連事業のノウハウも、各国経済の活性化に生かすことが可能です。

今後も、日本の経験、技術・ノウハウを生かし、都市化、環境問題といった課題に直面する国々に対して、鉄道インフラの整備の面からその解決に貢献していきたいと考えています。