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Highlighting JAPAN

賑わう「エキナカ」

日本の駅は、単に鉄道の乗り降りだけではない場所になっている。

ほとんどの日本の鉄道の駅には、乗客の利便性のために店舗を設置することが多い。食べ物、衣服、化粧品、書籍など様々なものを販売する店、レストラン、カフェ、バーなどがある「エキナカ」と呼ばれる施設を持つ駅も多い。そうしたエキナカ事業に力を入れている鉄道会社の一つが、東日本旅客鉄道(JR東日本)である。

JR東日本は、日本国有鉄道が1987年に分割民営化されたJRグループ7社の中で企業規模が最も大きく、1日平均で約1700万人が東日本全域に張り巡らされた鉄道網を利用している。民営化以降、JR東日本の営業利益の約70%は鉄道による収益である。しかし、日本の人口減少・少子高齢化が進むなかで、鉄道事業だけに頼らない、戦略を立てる必要があった。そこでJR東日本は2000年に中期経営構想を発表し、『ステーションルネサンス計画』を取り組みの柱の一つに据えた。計画のキーワードの一つが、『通過する駅から、集う駅へ』である。

「駅が最重要の経営資源であるということを再認識し、“エキナカ事業”に着目して、駅全体の再構築を目指しました」とエキナカ事業グループのグループリーダーを務める加古恵介氏は語る。「駅を単に通過するためのものとしてとらえるのではなく、駅の中に魅力的なショッピングゾーンが広がれば、目的を持って集まっていただける駅になると考えたのです」。

こうして2005年に、改札内にあるモール型ショッピングセンター『ecute』が埼玉県の大宮駅と都内の品川駅に誕生した。電車を降りてホームからエスカレーターでコンコースに上がった瞬間、目の前にショッピングゾーンが広がり、改札を出る前、あるいは乗り換えの合間に食事やショッピングを楽しむことができるものである。乗客に与えたインパクトは大きく、初年度から設定した売り上げ目標を大幅に上回った。

「冷たくて無機質な印象だった従来の駅構内のイメージを覆すために、内装の素材にも徹底してこだわりました。明るい照明、色とりどりの豊富な商品など、駅のイメージを180度変えることができたのが成功の大きな要因だと思います」と加古氏は言う。「お客様の利便性にかなうように、サービスの速さにも磨きをかけてきました。過剰包装は避けてコンパクトな包装にしたり、お釣りの1円玉のやりとりをなくすために、価格の端数を切り捨てたりといった具合です。もっとも最近はニーズが多様化しているため、マッサージやブックカフェのようなくつろぎの空間も導入しています」

エキナカではecute以外にも日常品中心の店舗を揃えた『Dila』など異なるタイプのモールも展開しており、首都圏を中心に現在25箇所の駅で営業している。店舗や取り扱う商品やサービスは地域の特性に合わせてアレンジされている。例えば、子育て世代が多い東京の郊外にあるecute立川には保育園が設けられている。JR東日本は子育て支援にも力を入れており、駅ビルや高架下などを利用した保育園は今年4月に100ヵ所を超えた。

保育園の例に見られるように、JR東日本はエキナカ事業を通じて、地域活性化に向けた取り組みも積極的に行っている。

「地域を元気にすることは鉄道事業にとっても大切です」と加古氏は言う。「当社は、エキナカで地域の特産品を集めた各種専門店をオープンしたり、地域と連携して町歩きのイベントを企画したりと、様々な取り組みを続けています。農業にも参入して、酒米やトマトなどの農産物の栽培事業も行っています。それらの農産物や加工品の販売もエキナカで始めました」

JR東日本はエキナカでの外国人観光客向けのサービスにも力を注ぎ始めている。例えば、レストランのメニューを4ヵ国語で表記したり、コンビニでは販売商品が一目でわかるようにピクトマーク表示を加えたりなどしている。TAXフリーの免税カウンターも積極的に導入している。

2016年12月には、シンガポール中心部に位置するタンジョン・パガー駅直結の複合ビル「タンジョン・パガー・センター」に、同社海外初の直営店舗となるJAPAN RAIL CAFEをオープン。日本の食材を使った飲食の提供に加えて、日本での観光情報の発信や鉄道パス類の販売を行っている。

「海外の方からは日本のエキナカの規模にビックリしたという声を多く耳にします」と加古氏は言う。「今後、外国人の利用者の方々のために、日本のエキナカならではの利便性や楽しさに関する情報を、さらに発信していきます」