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Highlighting JAPAN

 

厚切りジェイソン(Atsugiri Jason):日本語を揶揄する


日本では「厚切りジェイソン」として知られているアメリカ人のジェイソン・デイビッド・ダニエルソンさんは、日本語の複雑さをひやかす、エネルギッシュでおもしろいコントで聴衆の心を捉えてきた。

2005年から、IT企業役員として日本に在住・就労されていますが、どのようにして日本のお笑い界への突破口を開いたのですか?

数年前、ワタナベエンターテインメント・コメディスクールの週末コースに入学しました。テレビで観るお笑いが好きで、自分でもやってみたいと思ったからです。1年コースが終わる頃、いくつかのテレビ番組がオーディションに招いてくれました。そこからどんどん膨らんでいった感じです。

ジェイソンさんのコントには共通のテーマがありますね…

ほとんどのコントで、漢字や日本語のフレーズの中にある矛盾やパラドックスを指摘しています。概ね漢字は、複数の小さな部首が組み合わさることで成り立っています。こうした小さい部首の持つ意味を別々に見ていき、その漢字全体の持つ意味と比べてみると、多くの場合矛盾があるように感じます。たとえば「狩り」を意味する「狩」は、「動物」を意味する部首と「守る」を意味する部首で成り立っています。「歩く」を意味する「歩」は、「少し止める」ことを意味しています。これらは単一の漢字の例ですが、複数の漢字を組み合わせるとさらにおかしなことになります。たとえば「ソックス」を意味する漢字は「靴下」と書きます。でも文字どおり「靴の下」に履いたら、本当に汚いソックスになってしまうでしょう。こうした矛盾は、フレーズにも見ることができます。たとえばもし悪いことをしたら、日本語では英語と同様「悪事に手を染めた」と言い表します。でもその悪事を止めた場合「足を洗った」と表現します。まったく関係のない「足」をどうして洗うのでしょう。理解できません。

「Why Japanese people!」(なぜなんだ日本人)というキャッチフレーズはどうやって思いついたのですか?

まったくの偶然です。コメディスクールにいた頃、大勢の人の前でパフォーマンスをすることに慣れておらず、時々パニックに陥って言うべきことを忘れてしまうことがあったのです。そんな瞬間、このフレーズが口から出てきました。ワタナベコメディスクールの講師の一人が、フレーズそのものがおもしろいからもっと意識するようにと言ってくれたのです。それ以来、コントに毎回そのフレーズを入れるようになりました。「Why Japanese people!」は、とても興奮しているアメリカ人のステレオタイプ的な人格を表すと同時に、簡単な英語であるがゆえに、ほとんどの日本人が「この人は混乱している」と理解することができます。

日本のお笑い界の特徴を言い表すと、どのようになるでしょうか?

大きく分けると2つのタイプあると思います。ビジュアル系の芸人(女性お笑いコンビの日本エレキテル連合さんや水着を着用する小島よしおさん)は、目に見えるおもしろさや驚きを、おかしな動きなどを通して表現していると思います。もう一つは、言葉遊び(漫才)を用いるお笑いです。これとは対照的に、アメリカのコメディは政治をテーマにしたものが多く、誇張した表現や皮肉を使って社会的・政治的な事柄を揶揄することが多いのです。これは日本ではあまり見られません。

日本語を勉強している読者に、どのお笑い番組をお勧めしますか?

「エンタの神様」は、私が初めて日本に来た時に観ていた番組です(厚切りジェイソンさんは現在も出演中)。番組ではとても短いコント(有名芸人や新人芸人など多岐にわたる)が次々と紹介されます。繰り返しが多く、橋渡しのセリフで笑うポイントをはっきりと表す、というのが特徴です。アメリカの連続ホームコメディで、「サクラ」の笑いを使うのと同じですね。また、画面の下には字幕が流れます。

エンターテインメントにおいて、ご自身のキャリアがどう進化してきていると思いますか?

最近はお笑いよりも、ITやビジネスの経験を活かすようなコメンテーターとしての役割が多くなってきています。現在、NHKの教育テレビチャンネルでレギュラーを務める番組が2本あります。「えいごであそぼ with Orton」と子供たちに基本的なコンピュータープログラミングを教える「Why!? プログラミング」です。ランダムなお笑いよりも、より目的のはっきりした教育エンターテインメントに取り組んでいます。

エンターテインメントの仕事がお好きですか?

はい。たくさんの面白い人に会うことができますし、他では絶対体験できないことに挑戦することもできます。たとえば深海漁業に挑戦したことがあります。本当に深い所まで潜って、不気味な怪物のような魚を捕まえたのです。海の深い所では、水圧が水面付近とはまったく異なるので、引き上げる最中に魚は破裂してしまいました。「おや、これは何の魚だろう?」みたいな大きいリアクションをしながら(手を口に近付けるジェスチャーをしながら)、その魚を食べる羽目になりました。こうした機会に恵まれるのも、エンターテインメントの仕事をしているからでしょう。