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Highlighting JAPAN

漫才ってなんだ?!!!

漫才ってなに? 漫才師のステファン哲に聞くのが一番。

日本において最も人気のあるお笑い演芸は漫才である。その起源は、約1000年前まで遡ることができ、新年にめでたい言葉を歌唱して繁栄と長寿を祈った「万歳」に由来すると言われる。漫才の基本的な形は、欧米をはじめ世界で目にすることができる二人組のコメディーに似ており、ひとりが「ツッコミ役」を、もうひとりが「ボケ役」を担当する。だが、日本の漫才の場合、ツッコミ役とボケ役の間の矢継ぎ早の掛け合い、駄洒落、そしてボケ役が観客の笑いを誘うために行う意図的な勘違いや間違いを織り込んだ所作に重点が置かれている。

今日、日本の大衆芸能の世界で優勢を占めている漫才の独特なスタイルは、大阪が発祥であり、大阪市中央区難波に本店・本部を構える吉本興業株式会社によって全国に広められていった。漫才人気のおかげで、吉本興業もいまや巨大なエンターテイメント企業へと成長し現在、日本の有名なお笑い芸人の多くが、同社に所属している。

よって、アメリカ生まれのステファン哲が、(著名な)漫才師になるという野心を実現させようと決意した時、彼は吉本興業が運営している吉本総合芸能学院(ニュー・スター・クリエイション: NSC)に行くべきだと知っていた。NSCは、お笑い芸人・エンターテイナーの育成を目的とした1年制スクール。志望者を対象に提供されるカリキュラムは、ボイス・コントロールやネタ作りに代表されるパフォーマーに求められる基礎的スキルに加えて、ダンスや殺陣などの授業から構成されている。

ステファン哲は、米国カリフォルニア育ちではあるが、日本人の母親を通じて漫才のスタイルについて聞きかじっていた(英会話先生になり、漫才のことを知った)。彼は、NSCで過ごした日々を振り返り、ダンスや殺陣のクラスには「うろたえた」が、最もきつかったのは、厳しい講師の前で演じる日々のルーティンや、「ノート取りながら、ネタ披露の授業でライバルにあたる同期生のパフォーマンスを見て笑わないでいること」と述懐している。

ステファン哲はボケ役で、NSC時代に10回ほどコンビの形成と解消を繰り返した。NSC卒業直後に現在の相方であるレオと出会い、コンビ「いるかパンチ」を形成する。二人は現在、吉本興業のグループ企業でタレント・マネジメント等を主な事業とする株式会社よしもとクリエイティブ・エージェンシーに籍を置き、漫才サーキットを通じて漫才コンビとしての地歩を築く一方、技術を磨く日々を送っている。

外国人が漫才師として活躍するのは簡単なことではないが、漫才界で数少ない外国人漫才師の一人であることは、ステファン哲本人とコンビであるいるかパンチにメリットをもたらしている。吉本興業と世界最大級のオンラインストリーミングNetflixは、コンテンツ制作の分野においてパートナーシップ関係にあり、ステファン哲は昨年、グローバル・オンライン・ビデオ・プラットフォームで配信された番組『What’s Manzai?』で主役およびナレーターを務めた。この動画は、ステファン哲のお笑い学校における漫才のレッスンや漫才習得への道のりに加えて、彼の漫才がどう受けて、西欧のコメディーとはどう違うのかを追ったドキュメンタリーである。

「日本と西欧のコメディーでは、出発点が異なります。日本のコメディーは、人々をただ楽しい気分にさせることに気を配っていますが、欧米のコメディーではパフォーマーが言いたいことを口にします。独白と言ってもいいかもしれません」。ステファン哲は、よしもとクリエイティブ・エージェンシーの東京事務所で行われたインタビューでそう述べている。

「米国では、政治を題材にしたジョークが数多くあります。しかし、日本のお笑いでは、政治の話題は避けられます」。彼は、以前自分の漫才で政治について触れたネタを披露したことがあるが、聴衆にあまり受けが良くなかったことを認め、次のように付け加えた。

「聴衆の受けが良くなかった理由について、はっきりしたところは分かりません。しかし、漫才に代表される日本のお笑いの世界では、観客全員に声を上げて笑って欲しいと思っています。しかし、政治を題材にしたジョークでは、中には不愉快になる人が必ずいるでしょう」。

彼は、外国人漫才師であるという珍しさ故のメリットを認めながらも、「アメリカ人だからという理由だけで面白いと思われたくない」と述べる。しかし、彼の漫才には、他にはないものを持っている点が活かされている。「最初のうちは、アメリカ人であるが故に、自分には他の日本人漫才師にはない部分があるという事実に頼らないようにしていました。でも、プロデューサーをはじめとする様々な人たちからは、ネタ作りにそうした点を積極的に取り入れるよう求める声が少なくありませんでした。そこで、実際に取り入れてみたところ、成果は上々です」。

漫才師としてはまだ駆け出しであるが、ステファン哲は、吉本興業が大阪で運営し、「漫才のメッカ」と言われる「なんばグランド花月」(NGK)で漫才を披露すること、そして、「M-1グランプリ」で優勝すること、を将来の目標の一部に据える。 M-1グランプリは、毎年12月に決勝戦が行われる吉本興業主催の漫才コンテストで、その模様は全国ネットでテレビ放映される。優勝すれば、1,000万円(9万米ドル)の賞金と、一気に漫才のスターダムを駆け上れる機会を手にすることができる。

「パフォーマンスの面で言えば、英語で漫才をしたらどうなのか、果たして上手くいくのかどうか、心底知りたいと思っています」、とステファン哲は語る。