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Highlighting JAPAN

笑いを大阪から世界へ

いま、日本で最も有名なお笑いプロダクションが海外の聴衆を拡大しようとしている。

日本政府は、コンテンツの海外展開を精力的に推進してきている。今年5月の「知的財産推進計画2017」ではコンテンツの海外展開促進と産業基盤の強化が盛り込まれ、また、6月9日に閣議決定された「未来投資戦略2017」では、具体的に2020 年度までに放送コンテンツ関連海外売上高を2015 年度の288.5 億円から500 億円に増加させる目標が掲げられた。

日本企業がいかにコンテンツの海外事業展開に取り組んでいるか、吉本興業はその一例である。

吉本興業は多くの分野で活躍する有名芸能人を抱える日本のメジャーエンターテイメントグループである。同社の代表取締役副社長の田中宏幸氏によれば、同社は、かつては楽器や扇子を使う寿(ことほ)ぎの芸能であった漫才を世に広めたが、今では映画やテレビ番組制作、アーティスト・マネジメントまで事業を拡げているとのことである。

吉本興業は海外展開にも力を注いでおり、2008年には、世界的なショービジネスの最大手「クリエイティブ・アーティスツ・エージェンシー(CAA)」との間で番組やタレントの相互プロモーションに合意、調印している。「創業100年目の2012年に作成した次の100年ビジョンでは、柱の一つに海外における存在感の強化を盛り込みました」とMCIPホールディングス代表取締役社長の横手志都子氏は説明する。

MCIPホールディングスは、アジアに日本のコンテンツを発信することを目的に、クールジャパン機構(2013年11月に官民ファンドとして設立)の支援を受け、2014年に、ソニー・ミュージックエンタテイメント、電通、ドワンゴ、イオンモール、滋慶学園グループと吉本興業が立ち上げたジョイントベンチャーである。(翌年にはスペースシャワーネットワークも参画)

2008年、吉本興業は海外での事業提携を発表している。著名なコメディアンを養成していることで有名なシカゴの「セカンドシティ」との事業提携である。この提携によって日本では少ない即興コメディのノウハウを獲得し海外展開にふさわしい人材を育成しようというのだ。

しかし、こうした提携だけでは、言葉や文化の壁を超えコンテンツを広めることは容易ではない。

「言葉に依存するコメディにとって、海外展開はとても大きなチャレンジです。でも、これこそがこれまでにない別の形のエンターテインメントとなり、国際的に急速に広がっている理由でもあります」と横手氏は言う。

「弊社が最初に手掛けたプロジェクトの一つが、芸人を海外に送り出して生活させる『住みますアジア芸人』プロジェクトでした。この目的は現地の言葉を理解させることにとどまらず、現地の文化やユーモアのセンスを体得させることにあります」と横手氏は説明する。

このプロジェクトのもと、現在、16人の吉本芸人が、タイ、台湾、ベトナム、インドネシア、マレーシアそしてフィリピンに直近2年間にわたって生活している。そのうちインドネシアでは 「Y-Boyz」(Yoshimoto Comedian Project from Indonesia)というプロジェクトのもと、「そこらへん元気」と「アキラ・コンチネンタル・フィーバー」の二人のピン芸人と「ザ・スリー」という三人組の5人がインドネシアに暮らしている。ザ・スリーは「ジャパニーズ・リアクション・パフォーマンス」という日常をネタにした芸、寸劇と音楽にのって踊りながら演じる「リズムコメディ」のネタでブレークするに至った。彼らは現地のテレビ番組などに登場し、多くのファンを獲得している。

吉本興業が挑むお笑いの海外展開のキーワードは「Laugh&Peace」である。

同社は、今年5月、台湾の台北市にあるアートやポップカルチャー集積の地“華山1914クリエイティブパーク”にJコンテンツ発信拠点「華山Laugh&Peace Factory」を立ち上げ、さらに台湾にほど近い沖縄では、同社が日本とアジアから生徒を募集する沖縄新エンタテインメントスクールを2018年4月に開校させる予定としている。

また同年、吉本興業が手掛けた沖縄国際映画祭(OIMF: Okinawa International Movie Festival)が10周年を迎える。映画祭は、現在は「島ぜんぶでおーきな祭」と謳っており、映画だけではなく、現地とアジア全体に及ぶコメディや他のコンテンツの祭典でもある。

「Laugh&Peace」はOIFMのスローガンでもある。吉本興業はこのメッセージを掲げ、言葉の壁、文化や笑いの違いを乗り越えながら、アジア全域からさらにその先へと事業拡大を計画しており、日本のコンテンツの海外展開に一役買うことが期待される。