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Highlighting JAPAN

世界最小で世界最高の発電効率

日本では、コンパクトなサイズで高い発電効率を誇るエネファームが急速に普及している。

近年、日本ではエネファームと名付けられた家庭用燃料電池の普及が急速に進んでいる。これは一般家庭に供給される天然ガスやLPGから水素を取り出し、空気中の酸素と反応させて発電するコジェネレーションシステムで、環境性と経済性が高いというメリットがある。エネファームは、火力発電による既存の発電・送電システムに比べて発電効率が良いばかりでなく、送電ロスも少なく、さらには発電時に発生した熱を給湯に利用できるため、エネルギー利用率(総合効率)がきわめて高い。

現在、多くのメーカーがエネファームの開発にしのぎを削っているが、そんな中、従来の機種に比べて性能を格段に向上させ、世界最高の発電効率と世界最小のコンパクトさを実現した新製品が登場した。大阪ガスが2016年に発売した新型の「エネファームtype S」である。この新しい家庭用燃料電池について、大阪ガス株式会社・商品技術開発部・燃料電池開発チームの細川沙奈さんに話をうかがった。

「エネファームの普及に向け、これまで大きなネックとなっていたのは製品価格と設置性の問題でした。つまり、さらなるコストダウンとコンパクト化を図る必要がありました。そのためには、発電効率の向上が必要不可欠でした。セルスタックの電気抵抗を減らすことでセル枚数を削減しても十分な電圧を確保し、世界最高発電効率52%を実現しました。しかし、(セル枚数を減らしたため1枚のセルにかかる負荷が大きくなり、)セルとセルをつなぐ金属が高温で劣化するという耐久性の課題が発生しました。

これは技術的に非常に難しい課題でしたが、京セラと共同で開発した独自のセラミックコーティング技術が解決への重要な鍵になりました。その技術を採用することで、高い発電効率と製品化に欠かせない耐久性を両立させることに成功しました」

新しいエネファームtype Sの発電効率は従来製品の46.5%から、世界最高レベルの52%へと向上した。これにより、排熱量が減ったため小型化した貯湯タンクを発電ユニットに内蔵し、コストダウンの進んだ汎用のガス給湯器との接続を可能にすることで、価格低減と世界最小のコンパクト設計を同時に実現したのである。

「弊社の試算では、一般的な戸建住宅に暮らす4人家族の場合、新型のエネファームを導入することによって、年間の光熱費を約24万9000円から約13万5000円にまで引き下げることができます。また、価格面でも初代機に比べると80万円近く安くなっています。」と細川さんは言う。

このほか、大阪ガスでは2016年4月からの電力小売自由化に合わせ、余剰電力の買い取りも開始している。このため、新しいエネファームtypeSでは効率のいい24時間定格運転が可能になり、家庭で消費しきれない電気を売電することで上述のような光熱費の大幅な削減が可能になった。

環境にも家計にも優しいエネファームの新型機は、エンドユーザーばかりなく、住宅販売業者などからも非常に高い評価を得ているという。コンパクト化を進めたことにより、設置スペースは約1.9㎡から約1.4㎡まで小さくなり、敷地の狭い戸建住宅や集合住宅にも導入しやすくなったためだ。また、こうした画期的な商品力が評価され、平成28年度には省エネ大賞の「資源エネルギー庁長官賞」や「地球温暖化防止活動環境大臣表彰」など、数多くの賞も受賞している。

細川さんは今後の目標を次のように語った。

「2017年5月にエネファーム全国累積普及台数は20万台を突破しました。これに対して政府は2030年までに日本の全世帯の約1割に相当する530万台の普及目標を掲げています。この目標に近づけていくためには、さらなるコンパクト化や高効率化といった技術開発が欠かせません。そして、技術開発によるコストダウン、コストダウンによるマーケット拡大、マーケット拡大による新たな技術開発への投資という好循環のループをこれからも大きくしていきたいと思っています」