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Highlighting JAPAN

最先端技術で新領域と融合する歌舞伎

日本の伝統文化を代表する歌舞伎が、最先端技術との融合によって新たな領域を切り開き、伝統の間口を拡大している。

歌舞伎は400年有余の歴史がある。2008年にはユネスコの「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」に記載されるなど、日本を代表する古典芸能のひとつである。その継承に大きな役割を果たしてきているのが唯一の歌舞伎製作、興行会社であり、歌舞伎座を運営する松竹である。

2016年、松竹は、パナソニック、NTTと共に、アメリカ・ラスベガスでの歌舞伎公演『KABUKI LION 獅子王』をめぐる取組を、そしてドワンゴ、NTTとのコラボレーションによる『超歌舞伎 今昔饗宴千本桜』の製作、上演に果敢に挑戦した。これらの取組は、歌舞伎と最新デジタル技術を融合させ、大きな発展可能性を示したとして評価され、2017年2月、日本の魅力を海外に展開する異業種連携プロジェクトを表彰するクールジャパン官民連携プラットフォームの「第一回クールジャパン・マッチングアワード」グランプリを受賞した。

今回のコラボレーションには、ひとつの流れがある。1986年から始まった三代目市川猿之助によるスーパー歌舞伎公演、ニューヨーク公演でも大成功をおさめている十八代目中村勘三郎による平成中村座などの新しい取り組みによって、歌舞伎の観客層が広がってきたことである。

松竹の演劇部門を担当する執行役員の野間一平さんは、1950年に建てられた旧歌舞伎座の建て替え、2013年の歌舞伎座及び歌舞伎座タワー開業に携わった。野間さんは、伝統文化や歌舞伎の維持継承を理解してくれるテナント探しに奔走し、動画共有サイト「ニコニコ動画」を手掛けるドワンゴが歌舞伎タワーへの入居を決めたことで、超歌舞伎の実現に繋がっていった。

「最初はリーマンショックの影響で苦戦しましたが(笑)、ドワンゴ創業者の川上量生会長が決断してくれて入居が決まりました。そして同社の役員が2015年のスーパー歌舞伎II『ワンピース』を見て、『ニコニコ超会議』での公演を打診してくれたのです」と野間さんは超歌舞伎のきっかけを話す。

ニコニコ超会議はドワンゴが2012年に始めた、インターネットとリアルをつなぐ、参加型複合イベントで、二日間にわたり、千葉県の会場「幕張メッセ」でさまざまなコンテンツが披露され、絶大な人気を集めている。今年の会場来場者は15万4千人、ネット来場者が505万9千人を超えた。

2016年、松竹はドワンゴの依頼により、『超歌舞伎 今昔饗宴千本桜』を同社と共に製作、人気歌舞伎俳優の中村獅童とバーチャルシンガー 初音ミクとの共演を実現させた。

この組み合わせは、初音ミクの大ヒット曲「千本桜」と歌舞伎の演目「義経千本桜」という「千本桜」を巡る共通項から決まったという。しかし、当初は中村獅童は初音ミクの存在をまったく知らなかった。

「それでも松竹がやる以上は演出が歌舞伎のセオリーに忠実な内容であることを獅童さんに説明しました。実際の上演も歌舞伎のセオリーを踏み外していません」と野間さんは伝統重視を強調する。

上演ではドワンゴの特殊効果のほか、NTTの「Kirari!」という最新のデジタル技術が使われた。瞬間的に俳優の姿だけをリアルタイムで切り取り、即座にスクリーン投影することで俳優の分身を出現させたのだ。伝統文化と最先端技術の融合は新しい表現であり作品の見どころであるとともに、良し悪しが問われる部分だ。

野間さんは「先端技術に限らないことですが、作り手のひとりよがりにならないこと、お客様にいかに分かり易く伝えられるかということに尽きます」と語る。

このコラボでは作り手の気持ちが観客にも伝わったという手応えがあった。歌舞伎では、通常、見せ場で観客が俳優の屋号の掛け声をかける。中村獅童には「萬屋!」と、ミクには「初音屋!」、そしてNTTのKirari!の演出には「電話屋!」という掛け声が飛んだ。

2016年4月にアメリカ・ラスベガスで上演された『KABUKI LION 獅子王』は、人気歌舞伎俳優の市川染五郎主演で、ラスベガスという土地にローカライズした歌舞伎作品として製作された。芝居の冒頭の場面をデジタルで演出したり、俳優のセリフの一部や唄の歌詞にも英語を取り入れ、歌舞伎がはじめての現地の観客にも親しみやすい作品となった。

松竹が新しい歌舞伎に挑戦する大きな目的は歌舞伎の裾野拡大にあると野間さんは語る。「色々な入口があっていいと思います。東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年に向けて、外国からのお客様にも歌舞伎に触れていただきたいですね。その為にも色々な入口から歌舞伎にお立ち寄りいただければ、という思いです」

松竹の歌舞伎海外公演は1928年から約90年にわたる歴史がある。その実績をもとに、2020年、さらにその先を見据えて、大いなる可能性を追求していこうとしている。