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Highlighting JAPAN

神獣を解き放つ

伝統を大切にする心に宿る神獣を生き生きと描き出す若手アーティスト小松美羽に、世界の注目が集まっている。

2006年、22歳の時に発表した銅版画「四十九日」で注目を集め、以来、国内外で活躍する小松美羽さんは、日本の伝統工芸に光を当て、独自の現代アートとして作品を発表し続けている。

2015年、寺社の門に置かれる狛犬を題材にした「天地の守護獣」がイギリスの「チェルシーフラワーショー」で大きな話題を呼んだ。これは日本を代表する焼き物、有田焼の七代目弥左エ門窯(Yazaemon Kiln)とのコラボレーションから誕生した作品で、彼女は江戸時代の紋様を用いて現代風の狛犬を仕上げた。10月には、大英博物館が、力があり表現力がありそして存在感があるとして、作品の所蔵・展示を決定。11月には、世界最大級の美術品オークションハウス「クリスティーズ」から依頼を受けて出品した「遺跡の門番」が高額で落札された。

小松さんの作風を貫いているのは神獣と祈りだ。神獣とは、例えばエジプトのスフィンクス、メソポタミアやインドのライオンなどの守護獣であり、日本では仏教とともに伝わった「獅子」だ。この獅子が、平安時代(794-1192)初期に、今日多くの寺社にある「狛犬」となったと言われる。「神獣は神の国と我々の世界をつなぐ身近な存在です」と語る彼女は、狛犬の源流となる世界各地の神獣や人々の祈りの姿を訪ね歩くことで、日本の「和」の心を一層大切にしている。

小松さんは、2012年、伝統工芸をMade in Japanとして世界ブランドにする企画を展開する株式会社風土に参画した。ここから、彼女は博多織や有田焼、京都老舗着物メーカーと出会い、様々なコラボレーションを加速させていった。

小松さんは、2014年4月から、神々の地・島根県出雲市に住み込んで出雲大社から感じ取る宇宙と風土をテーマとする作品に取り掛かり、翌5月、出雲大社に「新・風土記」として奉納した。その絵は神祜殿に展示されている。

こうした創作活動を経て、彼女の「和」の心はいっそう確かなものとなった。彼女が掲げるのは「大和力を、世界へ」という言葉だ。

「大和力の本質はいろんなものを繋げてしまうミックス能力、日本に伝わった様々な要素を混ぜ合わせ、そこから独自のものに仕上げ、そして再び発信する力です」と語る。

2017年6月、東京赤坂で開かれた自身の個展で、彼女は観衆を前にキャンバスに絵を描き上げる、ライブペイントを行った。

100本を超える絵具のチューブに囲まれ、キャンバスに向かって正座。瞑想し集中を高め、キャンバスの前に立つと筆を走らせた。チューブからそのままキャンバスに色を移し、器に入れた絵具を掴んでキャンバスに投げつけ、それを手で撫ぜ、絵筆を走らせてはまた色を重ねる。その一挙手一投足を、会場を埋め尽くした300人を超える観客が息をのんで見守った。

やがて彼女は、床に円と放射状にのびる線を描き、両の掌で混ぜ合わせると、その中心に正座して観客に深々と頭を下げ、一時間を超えたライブペイントを終えた。

2017年12月~2018年1月には台湾。2018年2~3月には香港での個展が予定されている。

「狛犬は日本のアイデンティティ、そしてアジアのアイデンティティだと思います」と小松さんは言う。

平成のルネサンスと言えば大袈裟かもしれない。しかし、小松美羽というアーティストの中心に「和」の心、彼女が言う「大和力」がどっしりと座っている。