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Highlighting JAPAN

小さな命を救う小さな企業の高度な技術

埼玉県川口市の小さな企業がベトナムで新生児の黄疸検診機器の試験導入に取り組んでいる。

生後まもない新生児には、しばしば黄疸の症状が現れることがある。これは新生児黄疸と呼ばれ、多くの場合は、新生児の肝臓が発達する約2週間後までには自然に消える。しかしまれに黄疸の原因となる血中のビリルビンの濃度が高すぎて下がらないことがある。軽症であれば簡単な治療で治るが、途上国では見落とされて重症化する例も少なくない。

従業員数わずか14人の日本の理化学機器メーカー、株式会社アペレは、この問題を簡便な検査機器を普及させることで解決させようと取り組んでいる。

現在、外務省はJICAと共同で、途上国の開発課題と日本の中小企業が持つ知見や技術とのマッチングに取組んでおり、アペレのプロジェクト「新生児黄疸診断機器導入を通じた新生児医療向上」は、2013年度外務省政府開発援助海外経済協力事業委託費「案件化調査」に採択された。

アペレが調査を行ったベトナムのホアビン省の省立病院と一部の郡立病院にはすでに先進国の支援によって、10項目以上の検査が可能な大型で高価な生化学検査装置が導入されていた。しかし、国民にもっとも身近な一部の郡立病院では、検査装置の未導入や新生児の専門医不在などの理由から、患者は上位の省病院に送られるため、省立病院は検査を待つ患者であふれていた。患者が多いことに加え、生化学検査装置は血液に試薬を加えて検査するため費用と時間がかかる。さらに大きな問題は、新生児の静脈に注射針を刺して採血するため高いスキルが必要であることに加え、検査に必要な量の採血は、新生児にとって負担になるということだ。

「途上国の医療現場で求められる機械は必ずしもハイスペックなものではありません。日本大手企業の製品の確かさは世界中で絶大な信頼を得ています。当社のような中小企業にとっては機能を絞った廉価な製品でも『メイドインジャパン』の品質を保つことが腕の見せどころなのです」とアペレの柏田満社長は話す。

アペレのコア技術は光学技術だ。この技術で開発したビリルビンメーターの特徴は、先ず試薬を必要としないこと、そして新生児の静脈に注射針を刺す必要がないことだ。新生児の足の裏などに針でわずかな傷をつけ、滲んだ血液を極細のガラス管に吸い上げ、それを5分ほど遠心分離器にかけてメーターに挿せばすぐに値を計測することができる。機能をビリルビン測定に限定したことで、機器は安価で軽量小型とすることが可能となり、遠心分離機と合わせても、外来の診察室に設置できる。また、使用に際して難しい技術は不要であり、その場でビリルビン値がわかる。

2014年、新たにJICAの「中小企業海外展開支援事業~普及・実証事業~」で「新生児黄疸の診断・治療水準向上のための普及・実証事業」に採択され、アペレではこのビリルビンメーターをベトナムで11の郡立病院に試験的に導入し、検査精度の高さを証明した。同社は、試験導入に合わせ、新生児黄疸やメーターの使用方法に関する研修を実施し、省保健局や郡の医療現場から高い評価を得た。現在、プロジェクトは普及実証の段階に入り、各家庭に対する新生児黄疸に関する啓発研修が行われている。

ベトナムでは病院で出産することが一般的になりつつあるが、出産の翌日には退院して自宅に戻る習慣があるため、黄疸の異変が見落とされがちである。

「現在、私たちのメーターに加え、同じ日本の中小医療機器メーカーに新生児黄疸の光線治療器を提供してもらい、郡立病院の外来で、診断から治療までできるように取り組んでいます。この連携は弊社にとって初めてのことで、とても良い経験になっています」と柏田社長は言う。

目下の課題は、ビリルビンメーター検査に対するベトナムの保険適用を受けることで、これをクリアすればいよいよ事業化へ進む。

「外務省とJICAのプロジェクトのもとで技術や製品提供で始まったのですが、現在ではベトナムの地方の医療関係者と直接会い、貴重な感想や意見を聞くことができます。中小企業だからこそできる貢献があると思います。私たちは、患者や医師のすぐそばで役にたつような製品を作り続けていきたいと思っています」と柏田社長は言う。

小さな命を救おうと決めた小さな企業が、小さくとも確実なステップを踏んでいる。