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Highlighting JAPAN

デザインが時代の課題を解決する

60年続くグッドデザイン賞は時代とともに変化する社会を映し続けている。

家電製品や自動車、家具などはもちろん、ロボットや共同住宅、宇宙ステーションまで、公益財団法人日本デザイン振興会が主催するグッドデザイン賞は、あらゆる領域を顕彰する日本で唯一の総合的なデザイン評価・推奨の運動である。そのルーツは1957年、旧通商産業省(現在の経済産業省)が貿易振興のために創設した「グッドデザイン商品選定制度」(通称Gマーク制度)である。近年は国内外からの応募を含めて毎年約1200件が受賞し、創設以来60年間の受賞作は約4万4000件にも及ぶ。

グッドデザイン賞受賞の証である「Gマーク」は、創設以来半世紀以上にわたり「良いデザイン」の象徴としての役割を果たし続けている。

公益財団法人日本デザイン振興会会長・川上元美さんは次のように語る。

「グッドデザイン賞は、単なるデザインの優劣を競うコンペティションではなく、そのデザインが“私たちの暮らしや社会を豊かにし得るのか”という視点で評価されています。私たちの身のまわりにはさまざまなデザインがあふれています。そうしたあらゆる領域から、先見性をもって今の時代に必要なものを見出し、それを広め、社会全体をより豊かなものへと導くことを目指しています」

グッドデザイン賞の評価基準は、時代により変化してきた。創設当初のころは「いかに経済的で、使いやすいものができるか」という視点であり、製品がもたらす機能にウェイトが置かれたという。例えば1958年に受賞した東芝の電気釜は、従来の竈で火を起こしてご飯を炊く作業を電化製品化することで一気に効率化し、社会に大きな影響を与えた画期的商品だった。そのデザインは、電気釜の原形として長く親しまれてきた。

1970年代には、オイル・ショックが要因の一つとなり、その視点が大きく転換する。

「いかに資源を使わないでものづくりをしていくかという課題に直面したことによって、カメラなどの工業製品のコンパクト化につながったと私は考えています。この進化は、現在の大きなテーマである”持続可能なものづくり”に合致しています」と川上さんは分析する。

1970年代後半には、戦後復興期に求められた「物の豊かさ」よりも「心の豊かさ」が重視されるようになり、人々が物理的な豊かさよりも潤いのある生活を求めたことがデザインの評価にも変化をもたらした。1981年の受賞作、ソニーのウォークマン(携帯用音楽プレーヤー)をはじめとするジャパンオリジナルの登場は、この時代を象徴している。

さらにデザインの視点を複層的に変えたのが、1996年に開村し、翌年グッドデザイン大賞を受賞した金沢市民芸術村(石川県金沢市大和町1-1)である。

「金沢市民芸術村は旧大和紡績工場の建築群を再生した総合文化施設です。特に優れた点として我々が着目したのは、再生建築のデザイン性の高さだけではなく、市民が24時間、無休で自主的に運営しているということでした。全国に先駆けて金沢市が市民の芸術活動を支援するために設置した公立文化施設で、人を動かす仕組みづくり、人の生活を豊かにする総合的な環境づくりといった、”形”ではないものが新たにデザインの領域として認識されるようになりました」

近年は、ベンチャーの中小企業による受賞作も注目されている。2015年にグッドデザイン金賞を受賞したイクシー株式会社(exiii Inc.)の電動義手「HACKberry」(手のない人が腕の筋肉を使い直感的に操作できる)もそのひとつである。3Dプリンタを活用することで製造コストを大きく抑えることに成功した上に、設計データをインターネットに公開し、世界中の開発者・デザイナーに無償で提供することで、機能やデザインの選択肢が連鎖的に追加される仕組みも評価された。

川上さんはこれからの日本のデザインについてこう語る。

「2011年、日本は東日本大震災という未曽有の災害を経験し、価値観の大きな転換期を迎えました。真に必要なものをきちんと選ぼうと考える人が増え、物よりも心の豊かさに重きを置く傾向が加速していると感じています。少子化の影響もあり、家族の形態や住まい方、地域のあり方など、あらゆる面で日本はますます変換し、同時に真に必要なデザインも問われていくでしょう」

 デザインには時代の課題を解決する力があるのです―。川上さんはそう語る。