Home > Highlighting JAPAN > Highlighting Japan August 2017 > 科学技術

Highlighting JAPAN

自動販売機が社会を見守る

最先端IoT技術がかつての人と人とのつながりを取り戻す可能性を秘めている。

国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)は、2017年6月から東京都墨田区において、地域貢献型IoTサービスである「見守り自動販売機」のフィールド実証実験を開始した。これは自動販売機とスマートフォンなどの情報端末を使って子供や高齢者らを見守るサービスを目指すものだ。

IoTとは「Internet of Things(モノのインターネット)」と言われ、センサーを取り付けたあらゆるものからデータを収集・分析して、最適化された事柄や有益な情報を受け取ることができる、今もっとも注目される技術である。しかし、NICTが考えるIoT活用は少し視点が違う。

NICTソーシャルイノベーション推進研究室の荘司洋三室長は「一般的にIoTというとビッグデータを活用するものと思われていますが、街の子供やお年寄りを見守るような仕組みに有用なのはビッグデータではないかもしれません。その地域で発生する情報をその地域に住む人たちで共有するようなネットワークを作ってみよう、というのがこのプロジェクトの発想です」と話す。

NICTが推進する地域貢献型IoTでは、世界初の試みとして、無線通信規格であるWi-SUNを使用するのが特徴である。Wi-SUNは、数100m程度の電波到達性能と、データを中継して発信できるマルチホップと呼ばれる通信特性がある。電波が届く範囲に中継点となる無線拠点を散りばめれば、大きな基地局を建設することなく、広範囲で高密度な無線通信のプラットフォームを低価格で構築できることになる。しかし、現実には、無線拠点の設置場所の確保や構築には、多くの時間とコストを要する。そこでNICTが着目したのが、日本中に遍在する自動販売機である。自動販売機は都市部では数100m以内に数基はあり、固定型無線ルータを設置すれば立派な無線拠点となる。今回の実証実験では墨田区に本社を置くアサヒ飲料株式会社が協力体制を取る。同社の飲料自動販売機を無線拠点化することで墨田区の面積90%以上をカバーできる試算となる。さらに、地域で活動するタクシーなどがIoT無線サービスに関わる情報を収集・配信する機能を持てば、人が実際に生活をするエリアに対して、より効率的にIoT無線サービスエリアを展開できると考えられる。今年は、やはり墨田区に本社を持つ本所タクシー株式会社の協力を得て車両にもスマートフォン型無線ルータを搭載し、いわば“動く”IoT無線サービスエリアの検証を行うこととしている。

「新しい無線通信技術が、どのように社会の役に立つものになるかを検証するのが私たちの研究室の仕事です。こうしたインフラは誰もが利用できる共用型で社会を利する使われ方をされなければなりません。そのために、実用化の際は、運用する団体、サービスを提供する企業などから趣旨への賛同を得ることが不可欠です」と荘司室長は話す。

扱えるデータ量は大きくないが、即時性のある情報が地域で同時に共有できるWi-SUNのIoTは、さまざまな問題解決のための活用が期待できる。例えば、道に迷った高齢者の捜索、倒壊の危険のある空き家の監視、防犯など街の安心、安全に寄与したり、あるいは、商店街のイベントのお知らせ、観光行事の案内など、街の活性化に寄与したりすることが考えられる。

その一例として、NICTは今回の実証実験で、子供の交通安全を確保する仕組みを計画している。統計上最も飛び出し事故が多いとされる7~8歳の子供に小さな発信機を携帯してもらうことで、子供が拠点の自動販売機の近くを走っていると、その情報が隣の拠点へと次々に伝わり共有される仕組みである。付近を走行する無線通信機搭載の車両にはアラートで注意喚起を促す。「人の目では見えない死角となるような交差点でも、Wi-SUNを使ったマルチホップ通信なら十分に手前から子供の存在を知らせることができます」と荘司室長は言う。「昔は、道で遊んでいる子供を見かけたら『危ないよ』と声をかける大人がいました。『見守り自動販売機』はその大人たちのように街を『見守り』『つぶやく』イメージです」

現代の日本では、かつての人と人のつながりによるネットワークが機能しなくなってきている。最先端のIoTがそれを補い新たなネットワークを作り直すことが出来るかもしれない。