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Highlighting JAPAN

 

民間がけん引する日本のSDGs


持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向け、政府がSDGs推進本部の下に設置した「SDGs推進円卓会議」のメンバー、蟹江憲史慶応大学教授に日本のSDGsについて話を聞いた。

持続可能な開発目標(SDGs)の日本の取組状況をどうご覧になっていますか?

結論から言えば、民間の動きが活発だということです。

私は、2012年のリオ+20の頃からポストミレニアム開発目標(MDGs)とSDGsに関する日本の貢献を検討するプロジェクトリーダーを務め、環境、開発、社会の研究を統合した新たな価値を作ることをテーマに研究をしています。当初、環境NGOと開発NGO関係者の間に一緒にやろうという雰囲気はなかったのですが、SDGsがまとまる過程で変化が起きました。開発関係者が国際的な開発にはSDGsが大事だと語り始めたのです。2016年の実施段階に入ると、企業が「SDGsをどう活かせばいいのか」「どう扱えばいいのか」と高い関心を示し始めました。さらにNGOも環境と開発の統合が起き、民間セクターが動き出したのです。

SDGsは、簡単に言えば、法的拘束力もないし、やりたい人がやる、使える人が使い、持続可能な社会を目指そうというものです。こうした動きはこのコンセプトに呼応するものですから、SDGsは本当に上手く回る仕組み、装置なのだと感じました。

企業の反応の背景には「企業の社会的責任(CSR)」の浸透があるのでしょうか。

そうですね。同時にESG投資、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)にかなった投資の重要性に対する認識が広がり、企業文化が世界的な課題解決に向かってきましたので、SDGsは受け入れやすい仕組みだと言えるのです。

もう一つの背景は、今年のダボス会議です。欧米の企業リーダーたちの間でSDGsが認識されていたのに対し、日本の参加者は認識が薄く「キャッチアップしなければ」という焦燥感で火がついたということでしょう。

日本企業がもっと意欲的にSDGsを取り込むための課題は。

まずSDGsを理解し、そして「SDGsはオポチュニティだ」と認識することでしょう。取り組めば得をすると経営の本流に結びつけて考えることです。海外市場拡大にもつながります。SDGsの実現に向けた動きが活発なインドネシアでは、開発計画をSDGsに沿って書き直しています。SDGsに取組んでいれば、例えば「当社の製品はSDGs目標5に貢献する」「目標3だ」という風に同じ言語で話せるわけです。売り込みが容易になり、負担ではなく機会拡大になるのです。

SDGs実施段階における政策・ガバナンスの在り方をどう考えますか。

簡単に言えば、これまでも温暖化や生物多様性など、目標ベースのガバナンスはありましたが、国際交渉で合意した結果を国内法に落とし込んでいく仕組みを積み重ねるだけでは地球は潰れてしまうことが分かってきた。SDGsほど包括的なものは初めてで、グローバル・ガバナンスの仕組みを大きく変える可能性があると思います。

SDGsは、最初に目標を作って、方法はともかく目標達成に向けて「取り敢えず好きなようにやりましょう」というアプローチです。やや乱暴に響くでしょうが、商売になると思って積極的に動く企業が増えれば、それは新しい形になるということです。

蟹江先生が大学で取組まれているSDGsについて教えてください。

国連総会でSDGsが決まる前から、「キャンパスSDGs」と銘打ち、どれだけ学生の認知が上がるかを実験しました。例えば食堂には「食糧廃棄物を半減しましょう」、トイレには水の問題、ゴミ箱には廃棄物の問題、電気スイッチにはエネルギー問題に関するメッセージを書いた紙を貼りました。取組以前、SDGsの学生の認知度は18%でしたが、3週間後には80%程に上昇し、さらに「アクションを取りたい」「情報が足りない」というコメントが寄せられたのです。学内の教員も興味を持ち始め、今では滋賀県内の大学との連携や高校にも広がりを見せようとしています。

政府の役割は如何でしょうか。

国際社会はSDGs目標を作り、まず民間が反応した。国は縦割りを調整して統合的に考え、SDGsを推進する機構を作る、そこに必要な予算を拠出する仕組みを作るなど、すべきことがありますね。

同時に企業や自治体はどんどんアクション・ベースで動いていく必要があります。例えばサスティナビリティ商品に付加価値を与える標準化に取組むことです。国に頼らず出来ることであり、しかも民間の関心の高さが世の中を変えていけるもので、よい事例となるでしょう。

SDGs推進本部は「ジャパンSDGsアワード」の創設を決めていますが、顕彰にとどまることなく、民間のアクションを支える仕組みを作る必要があります。これはとても重要なアプローチです。