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Highlighting JAPAN

「三方よし」の地熱発電

日本企業がインドネシアで二酸化炭素排出削減に貢献する地熱発電プロジェクトを進めている。

江戸時代(1603-1867)、近江国(現在の滋賀県)に本店や本家を置き、他国へ行商して歩いた人は近江商人と呼ばれた。近江商人の経営哲学は「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」である。この精神を今に引き継ぐ企業の一つが、1858年に近江出身の伊藤忠兵衛によって創業された伊藤忠商事株式会社である。同社は現在、世界63カ国に約120の拠点を持ち、繊維、機械、金属、鉱物、エネルギー、化学品、食料、一般製品、不動産、情報通信技術、金融など幅広い分野で事業を展開している。同社は社会の「持続可能性」(サステナビリティ)を重視し、「持続可能な開発目標」(SDGs)など国際的なガイドラインや原則を踏まえ、事業分野ごとのリスクと機会を踏まえたサステナビリティアクションプランを毎年策定し、PDCAサイクルを回し推進している。

「自らの利益のみを追求することをよしとせず、社会の幸せを願う「三方よし」の精神は、サステナビリティやSDGsにつながるものと考えています。」とサステナビリティ推進室の栗原章さんは言う。

SDGs関連で、伊藤忠商事が力を入れている事業の一つが、温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)を発電時にほとんど排出しない再生可能エネルギー事業である。SDGsは気候変動を世界が直面している課題の一つと位置づけ、気候変動及びその影響を軽減する緊急対策の実施を目標として掲げている。

伊藤忠商事はスペインの太陽熱発電、アメリカやドイツの風力発電、インドネシアの地熱発電など、世界各国で再生可能エネルギー事業に参加している。その中でも、今年3月に商業運転を開始したインドネシアのスマトラ島のサルーラ地熱発電所は世界最大級の発電量を誇る地熱発電所である。地熱発電は、地下から採掘した熱水や蒸気といった地熱流体によってタービンを回し、電力を作り出す。使われた地熱流体は再び地下へ還元される。

「地熱発電は、地熱流体の採掘・還元を適切に管理することで、恒久的にエネルギーを取り出せます。太陽光や風力のように天候による出力の変動がないので、基幹的な電力源として活用することも可能です」と電力事業プロジェクトアジアチームマネージャーの中野久雄さんは言う。

アメリカに次ぐ世界第2位の地熱資源を有しているインドネシアは、総発電量に占める地熱発電の割合を現在の4%から、2026年までに9%へ引き上げる目標を立て、慢性的な電力不足の改善と、気候変動対策の両立を目指している。

サルーラ地熱発電所は、既に稼働している第1号機に続き、今年10月に2号機、来年の中頃には3号機が、それぞれ商業運転を開始する予定である。3機を合わせた発電容量は320.8MWと、インドネシアの190万世帯分の消費電力に匹敵する(インドネシアの人口は約2.6億人)。さらに、CO2の排出量は、化石燃料を使用した従来の発電所の約3分の1に減少すると推計されている。

サルーラ地熱発電所プロジェクトには伊藤忠商事などの日本企業、インドネシアの資源会社、アメリカの地熱発電会社が共同出資しており、国際協力銀行(JBIC)、アジア開発銀行(ADB)などの金融機関が融資を行っている。伊藤忠商事は出資のほか、様々な関係機関との調整役を担った。

「官民の様々な関係機関との交渉や調整を行い、プロジェクトを粘り強く実現していくという総合商社としての私たちの強みを発揮することができたと思います。今後もこの強みを生かし、世界で再生可能エネルギーの普及に取り組みたいと思います」と中野さんは言う。

伊藤忠商事は、インドネシアのジャカルタ郊外で開発・運営を行っているカラワン工業団地においても、SDGs推進に取り組んでいる。同工業団地には、広さ約1400haの敷地に150社を超える企業が入居しており、2016年にインドネシアの工業団地としては初となる「スマート街路灯」が約1200本整備された。スマート街路灯は高効率なLED照明と調光制御を組み合わせることで、省エネルギーとCO2排出削減を実現するシステムで、CO2の排出量は、通常の街路灯と比較すると約40%削減される。さらに同社はこの団地の入居企業と共同で、敷地内に年間1万本以上の植林用苗木を栽培しているほか、近隣住民のために、農業指導、中高生への奨学金の支給、乳幼児向けの離乳食の支給、助産婦向けの医療器具提供などの支援を行っている。

「三方よし」の精神がSDGsとともに、世界へと広がり、企業の持続可能な成長を後押ししている。