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Highlighting JAPAN

SDGsという物差しで滋賀の取組を世界へ

2017年1月、滋賀県はSDGsに取り組むと宣言した。その背景には日本最大の湖「琵琶湖」と人々との暮らしがある。三日月大造滋賀県知事にお話を伺った。

自治体としてSDGsに取組む背景から教えて下さい。

滋賀県は仏教が早くから伝わった土地であり、山川草木に仏が宿る思想を大切にしてきました。また、中世以降全国で活躍した近江商人の「売り手よし、買い手よし」に加えて「世間よし」という「三方よし」の精神が生まれ、また琵琶湖の下流で水を利用する人々のことを慮る思想も根付きました。福祉政策もいち早く取り組んできた歴史から、ボランティアが安い価格あるいは無料で食事を提供する「子ども食堂」は人口比ですと、全国で滋賀県が最も多いのです。

2015年、滋賀県は基本構想に「新しい豊かさ」という理念を掲げました。滋賀に根付く精神や思想を県民が再評価し行動を起こすことで、自分だけではない、今だけではない、モノだけではない、新しい「豊かさ」を皆で作ろうという理念です。そして、今年になってSDGsを一つの物差しにして、具体的な目標を設定していこう、世界との繋がり、未来との関わりの中で「自分たちの今・私たちのいる滋賀」を捉え直そうと参画を表明したところです。未来への視座、世界との関わりを絶えず意識して積極的な関わり方になればいいし、県民の新たな使命感の醸成にも繋がると思います。

従って、自治体こそSDGsに取り組める最適な単位であり、また取り組まなければならない単位であり、有効な取組が出来る単位だと考えています。

1977年に琵琶湖で赤潮が発生して水質悪化が問題になった際、市民が立ち上がり官民一体となって解決した経験がSDGsの取組に活かされますね。

SDGsの精神は、滋賀県民の行動と同じ未来を見ています。琵琶湖に大規模な赤潮が発生したのはちょうど40年前のことです。住民が立ち上がり、洗剤を無リン石鹸に切替え赤潮を止めようという運動を起こし、それが新しい製品開発や条例施行につながりました。

我々には世界有数の古代湖である琵琶湖を「お預かりしている」という思いがあります。琵琶湖から流れ出る水を周辺の他府県1450万人が日々飲み、使っています。県民は琵琶湖の水を「はばかるように、考えながら」使う伝統があります。この経験と考え方を活かしていきたいです。

2015年に施行された「琵琶湖保全再生法」はSDGsの展開にも意味があると思います。

大変大きな意味があります。県の条例ではなく国の法律で「琵琶湖は国民的資産だ」と位置付けられました。琵琶湖には60種以上の固有種が存在し、冬には10万羽を超える水鳥が羽を休めるラムサール条約に指定された湿地であり、生態系の観点からも重要です。

これを機に、「琵琶湖新時代」という構想を打ち出しました。琵琶湖を大切にしてきた先人の心に思いを致し、環境保全だけでなく、琵琶湖を活かした地域の魅力の向上と経済基盤の強化を図り、経済成長と環境保護が両立し、誰一人取り残さない社会を実現していこうとするものです。また、治水を巡る対立は何処にもあるものですが、今回の法律施行を機に関係府県と協議をする組織ができました。未来を生きる人達に意味のある取組につながるでしょう。世界には、国境を超える河川の課題を含め、水を巡る問題が多く存在しています。滋賀県の経験を世界と共有して行くことで、私たちの取組自体を高め、さらなる貢献につなげて行けると思います。

今年6月のシンポジウム「サステナブル滋賀×SDGs」について教えてください。

SDGsの浸透のために開催したシンポジウムは、トーマス・ガス国連事務次長補をはじめとする各界の皆さんの出席者を得て成功裏に終えました。この成功の陰には、熱心な地元経済界の協力がありました。彼らには、目まぐるしい時代の変化の中で商売を続けるには「三方よし」の精神が大事だという思いがあり、例えば滋賀経済同友会は、「NEO三方よし」、つまり「三方よし」 に 「明日によし」を加えた、持続可能な社会の実現のための新たな理念を打ち立てようとしています。こうした考えはSDGsと親和性が強いということですね。

とりわけ、ガスさんにはシンポジウムの前に、会場近くの中学1年生とディスカッションをしていただきました。彼の「自分たちの着ている服を誰が作っているか想像してみよう。」「その人達がどういう生活をしているか考えてみよう。」という熱い語り口に子供たちの目は真剣そのものでした。

次世代を育てることは重要ですね。

例えば県内の大学では慶應義塾大学と連携して「キャンパスSDGs」 に取組もうとしています。この他にも、この夏、立命館大学(びわこ・くさつキャンパス)の体育会の学生1000人余りが琵琶湖に集まって繁殖力の強い侵略的外来水生植物の除草作業をしてくれました。彼らはこの活動を一つの行事にしようと取組んでくれています。環境のため、未来のため、周りの人達のために出来ることはないか、という心が非常に嬉しくて心強い、そういう思いです。

SDGsの物差しで自分たちに何が出来るか、高校生、市民、自治会がそれぞれ出来ることを考えることに意味があります。滋賀県はそうした取組のつなぎ役となっていきたいのです。

これまで滋賀らしく進めてきたことを、より積極的に、グローバルな視点、表現、パフォーマンスを通して知ってもらえば、違った関わりや化学反応も起こるかもしれないし、多様な知見も得られ、より連携が深まっていくだろうと思っています。