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Highlighting JAPAN

名古屋市を「サムライ・シティ」へ

オーストラリア人のDJ、コラムニスト、そして作家であるクリス・グレンさんは戦国武将誕生の地である名古屋の歴史を地域住民、そして世界に広めようとしている。

名古屋のFMラジオ局ZIP-FMの人気音楽番組「RADIO ORBIT」の中に「ヒストリー・ミステリー」という呼ばれるコーナーがある。番組DJはオースラリア人のクリス・グレンさんで、彼は日本人視聴者に地域の歴史や文化を教える一環として、放送エリア内の歴史上の偉人や出来事を調べ、伝えている。

「名古屋を含む東海地方は、江戸時代初期の大名の7割を輩出した地方です。」とグレンさんは言う。「日本にとって、歴史的にとても重要な地方。それなのに、ここに住んでいる人たちは意外と自分たちの町の歴史を知らないのです。悔しいから、僕が自分でいろいろと調べて、リスナーのみなさんに伝えています。リスナーから、そんな優れた人物が生まれたところなのか!とかそんな面白い話があったのか!という反応があると嬉しくなります」とグレンさんは笑顔を見せる。

グレンさんが日本の歴史を好きになったのは、教師だった祖父の影響だ。「祖父は日本の歴史や文化を尊敬していました。不幸なことに、第二次世界大戦で祖父は日本軍と戦うことになってしまいましたが、戦争が終わるとすぐに、これからはオーストラリアと日本は仲良くしなければならないと学校で生徒たちに説いていました」とグレンさんは話す。

そんな祖父から日本の歴史や文化について話を聞いたグレンさんは、高校時代に交換留学の募集を見つけ、日本に留学。当時の教師の勧めで、1600年代に活躍した剣豪、宮本武蔵の一生を描いた小説を読み、侍の世界に心酔した。「侍は、強い勇気、情熱、武術の技量を持っていると同時に、絵や詩を書くといった芸術的な感性や高い教養も持ち合わせています。その後、学業に励み、織田信長や徳川家康をはじめとする戦国時代の優れた武将が、能を舞い、茶道を嗜む文化人でもあることを知りました」とグレンさんは語る。

帰国後、グレンさんは専門学校を経てオーストラリアのラジオ局DJとして活躍した。しかし、どうしても日本に「帰りたい」という思いが募り、7年後に再び日本に渡り、東京のラジオ局に職を得た。1993年、新しいラジオ局が名古屋に開局すると知ったグレンさんは名古屋への移籍を志願した。グレンさんにとって、名古屋は、多くの愛する戦国武将たちのふるさとであり、魅力的な都市だからである。

グレンさんは、古い侍の甲冑のコレクションを続けている。400年ほど前のものを中心に16領もの甲冑を持っているが、その中に1領だけ、新しく大きい甲冑がある。これはグレンさんが、名古屋市在住の甲冑師の工房に通って、教えを請いながら、自分の体に合うように自作したものだ。「昔の製法どおり、鉄の板を叩いて形をつくるところから、仕上げの漆塗りまで全部自分でやりました。おかげで今では、漆塗りの食器や家具を見ると、それがいかに高度で難しい技術を要したのかということが分かるようになりました」とグレンさんは言う。「日本のものはみなそうなのですが、使うために作られた道具がどれも美術品のように美しい。これは日本人の持つ特別な才能のひとつだと思います」

グレンさんは、イベント出演の機会があると、自作の甲冑を着て、侍の精神や文化について伝えている。

また、グレンさんは、長年メディアに携わってきた経験を活かし、日本全国の自治体で外国人観光客に向けた魅力的な街づくりやインバウンド向け事業のためのアドバイザーも務めている。グレンさんは、「名古屋を世界に向けて発信するために、名古屋市を『サムライ・シティ』として売り込むことが私の提案です。ちょうど今、名古屋のシンボルでありルーツである名古屋城を、昔の文献をもとに正しく復元する計画が進められています。これに合わせて、武将たちの生誕地を整備し、鉄炮町や鍛冶屋町といった古い地名も復活させて、地元の人たちが侍が活躍した町ということが分かるようになればいいと思うのです。日本のみなさんには、自分たちの町の歴史を学び、それに誇りを持って欲しいと思っています」と語る。

グレンさんのメッセージは日本の魅力を再発見する方法を雄弁に語っている―。