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Highlighting JAPAN

水流で電気を起こす

軽水力発電機を開発した茨城県日立市にある中小企業は、ネパールの安定した電力を供給できない閉ざされた地域に明かりを灯そうとしている。

株式会社茨城製作所が開発した軽水力発電機”Cappa+++”(以下、Cappa)は、従来の水力発電のイメージを大きく変える画期的な製品である。発電機本体の重量は57㎏、持ち運びでき、水深50㎝以上、毎秒1.5~2.0m程度の水流がある小川や水路に設置すれば、すぐに安定した電気を供給できる。

開発に当たった茨城製作所の代表取締役社長で、理学博士の菊池伯夫さんは、Cappaの特徴を次のように説明する。

「水力発電は、ダムなどにためた水を勢いよく落下させることで発電するのが一般的です。一方、我々が開発したCappaはダムのようなインフラを必要とせず、水が流れる川に入れるだけで発電できます。自然環境に負荷をかけることなく自然エネルギーを引き出す身近な発電システムなのです」

Cappa開発の直接的なきっかけとなったのは2011年の東日本大震災だった。

「日立市は6日間にわたって停電しました。最も不安だったのは、夜になると明かりが一切なく、携帯電話の充電もできなければ、テレビも映らず情報が全く手に入らないことでした。万一の災害時にも最低限の電力を確保できれば、こうした不安は解消できると考えたのです」と菊池さんは当時を振り返る。

菊地さんは、オックスフォード大学の博士課程で理論物理学を学んだ後、ドイツの大学や研究所、IT関連の企業や研究施設が集まるインドの大都市バンガロールで複雑流体の研究に携わり、バンガロールでさえ頻繁に停電が発生し、地方では多くの人々が電気のない不便な生活を余儀なくされていることを知っていた。この経験もまたCappaを開発する大きな原動力になったと言う。

茨城製作所は、菊池さんの祖父が1946年に創業した資本金3,000万円、従業員100人ほどの典型的な中小企業である。創業以来、日本を代表する総合電機メーカーである日立グループの協力会社として、様々なモーターや発電機の製造に関わってきた。理論物理学者から家業の後継者への道を選んだ菊池さんは「会社の規模は小さいですが、それでもモーター・発電機のスペシャリスト集団です」と自負する。

東日本大震災の後、菊池さんは「未来へ残そう豊かな地球」をスローガンに、社内で「earth milk project」を立ち上げた。創業以来培ってきた技術やノウハウを生かし、母なる地球の自然の恵みを「earth milk(地球のミルク)」と名付け、自然環境に負荷をかけずに自然エネルギーを活用する商品開発を目指すプロジェクトである。「同プロジェクトの下、F1や航空機の世界でも使われている最先端技術を駆使し、約2年の歳月を経て、初の自社製品Cappaを完成させました。Cappaは、軽水力の「軽」を「K」と置き換えて、Kをギリシャ語で読むとカッパというところから命名しました。また、日本語のカッパは、水辺に生息するといわれる伝説の妖怪の意味もあるため、日本人になじみがあり覚えやすいと思いました」と菊池さんは話す。

2014年、茨城製作所は独立行政法人国際協力機構(JICA)のODAを活用した中小企業海外展開支援事業に応募し、ネパールにおけるCappaの可能性や課題を調査した。ネパールはヒマラヤ山系の豊富な水資源を利用する水力発電が主な発電源だが、農村部の電化率は低く、都市部でも1日のうち停電が10時間を超えることが珍しくない。

菊池さんがCappaを持ち込んで行ったデモンストレーションで電灯がつくと、現地の人々から歓声と拍手が湧き上がった。学校や病院の関係者、地元自治体の代表者からは「すぐにでもCappaを使いたい」という声が上がった。

茨城製作所はこの調査で確かな手応えを感じ、2017年4月から2年間の予定でCappaの有効性を確認する普及・実証事業を開始している。電力供給が不安定な地域や無電化地域の学校と周辺コミュニティにCappaで電力を供給することにより、教育環境や生活水準の向上を目指す取り組みである。

「今後、ネパールに導入する6台のCappaのうち1台は一部の部品を現地生産する予定です。部品調達などの面ではまだ課題もありますが、将来的には現地の生産体制を確立することにより、コストダウンや地域振興、さらにはネパールからの輸出で周辺諸国への普及にもつなげていきたいと考えています」と菊池さんは意気込みを語る。

電気のない不安を体験したスペシャリストたちの社内プロジェクトが、停電が日常的に起こる地域の人々に力を与えようとしている。