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March 2024

本州と九州を結ぶ交通の要衝・関門海峡に架かる「関門橋」

  • 本州側(山口県下関市)から望んだ関門橋
    Photo: NEXCO西日本
  • めかり観潮遊歩道の入り口・めかりPAの展望デッキからの夕景
    Photo: NEXCO西日本
  • 航路確保のために吊橋形式を採用している関門橋
    Photo: NEXCO西日本
  • 下関側から撮影した関門橋ライトアップ Photo: 山口観光連盟
  • 福岡県北九州市の門司港には1924年に建てられた旧門司三井倶楽部など古い洋館が残る Photo: mojiko retoro
本州側(山口県下関市)から望んだ関門橋 Photo: NEXCO西日本

日本列島の本州と九州を繫ぐ「関門橋」は、全長1,068メートルの吊橋であり、日本の吊橋の歴史において、画期的な工法で建築されているという。

日本列島の本州(山口県下関市)と九州(福岡県北九州市)を隔てる関門海峡は、古代から、海外との交易などにおける交通の要衝であった。その関門海峡に歴史上初めて架けられた橋「関門橋」は、1958年に開通した関門国道トンネルの交通量増加に対応するため、関門自動車道の一部として1968年に工事着手し、1973年に開通した。関門橋について、西日本高速道路株式会社(NEXCO西日本)の広報課・深松智幸(ふかまつ のりゆき)さんは、説明する。

航路確保のために吊橋形式を採用している関門橋 Photo: NEXCO西日本

「関門海峡は、現在でも物流上交通の要衝であり、船舶の往来が多く、1年間に500総トン以上の船舶が約6万隻、1日にして約500隻が往来しています*。そのため、橋梁(きょうりょう**)形式の決定については、海峡を行き交う船の航路確保が必要だったため、長大支間***を有する吊橋が採用されました。橋桁の下の高さは海面(満潮面)から約61m、中央径間 712mという大きさは、開通当時では世界でも十指に入るほどの規模でした」

吊橋を支える左右2本のメインケーブルは直径約66 cmあり、1ケーブル当り14,014 本の亜鉛メッキ鋼線を平行に束ねた平行線ケーブルを採用している。実はこれは当時の日本で初めて採用された工法だった。

「それまでは現場で取り扱いやすいように、ケーブルはねじって使用されていました。ねじる分、総重量が10%増えるため強度が落ちる可能性がありました。そこで、ケーブルをねじらずに使用する方法を採用したのです。あらかじめ91本のワイヤーを工場で平行に束ねてドラムに巻き付け出荷し、現場でドラムから送り出しながら一括で架設する新工法(プレハブストランド工法)でとりつけました。これは、明石海峡大橋でも採用されるなど、のちの橋梁事業に影響を与えました」

下関側から撮影した関門橋ライトアップ Photo: 山口観光連盟

また、本橋は関門海峡をまたぐ橋梁であり、絶えず海風にさらされるため、腐食環境が厳しく、維持管理の面が問題とされた。そこで車道を支える補剛桁(ほごうけた****)に当時では珍しかった防食塗装を施した。のちの公共構造物に多く採用される耐久性の高い塗装方法で、大規模に施工するのは初めての試みだったという。

「この関門橋の建設で得た知見や技術がその後1980年代に建設された本州四国連絡橋(参照:本州と四国を結ぶ夢の架け橋「瀬戸大橋」)などの長大橋建設に生かされています。まさに、日本のその後の橋梁事業の展開への重要な先例となった歴史的な橋と言えるでしょう」

めかり観潮遊歩道の入り口・めかりPAの展望デッキからの夕景 Photo: NEXCO西日本

関門橋は徒歩で渡ることはできないが、関門トンネル人道と呼ぶ全長780mほどの海底トンネルで関門海峡の行き来が可能だ。九州側の北九州市門司区(福岡県)には、「めかり観潮遊歩道」が設けられており、間近に関門橋を眺めることができる。行き交うさまざまな船を眺めたり、古戦場・壇ノ浦*****から歴史に思いをはせたりするのも一興だ。特に夕方からのライトアップされた関門橋は美しい。また、遊歩道近くの門司(もじ)港周辺は「門司港レトロ」と呼ばれ、歴史的建造物を残した風情のある地域として海外の観光客に人気だという。かたや、本州側、関門橋のある下関市は名物のふぐ料理を始め海鮮料理が味わえる。

福岡県北九州市の門司港には1924年に建てられた旧門司三井倶楽部など古い洋館が残る Photo: mojiko retoro

機会があれば、関門橋とその周辺地域をぜひ楽しんでいただきたい。

* 国土交通省 九州地方整備局 関門航路事務所 | 関門航路について > 通航船舶の状況 > 通航船舶の隻数 (mlit.go.jp)
** 川、運河などに交通の便をはかるため、架ける構築物。
*** 橋脚(支点)と橋脚の間の長さのこと
**** 吊橋は、強風時における桁の安定性(耐風安定性)を確保するために、桁を三角形に組み合わせるトラス構造として剛性(強度)を高めることが多く、それらを補剛桁と呼ぶ。
***** 12世紀半ば以降に政治の実権を握った平家一族が、対立する源氏勢力に追われ、1185年、最後の決戦「壇ノ浦の戦い」で敗北、滅亡した。