11月28日から新しい建築士制度が始まります
建築物の構造計算書偽装事件が相次いで発覚したのは、まだ記憶に新しいところです。この事件によって失われた建築物の安全性と建築士制度に対する国民の信頼を回復するために、平成18年に建築基準法と建築士法がそれぞれ改正されました。このうち、専門家が構造計算書をチェックする制度の導入など、建築確認手続を厳格化する措置などが盛り込まれた改正建築基準法は、昨年6月20日から施行されています。また、建築士の資質・能力の向上などを目的とする改正建築士法は、本年11月28日から施行されます。
現行の建築士制度の問題点を洗い出す
平成17年に一級建築士による構造計算書偽装問題が発覚し、建築物の耐震性に対する信頼性が大きく揺らぎました。このようなことが二度と起こらないように、問題が生じた背景などを調査・分析した結果、建築士制度の観点からは、次のことが課題として明らかになりました。
- 建築士の資質・能力不足
構造設計や設備設計の業務内容の高度化に伴い、元請建築士がこうした専門別の業務を理解して、指示し、チェックできるだけの能力が必要となっているにもかかわらず、能力が不足しているケースがあるなど、建築士の資質・能力の不足が見られること
- 建築設計の専門分化による責任の不明確化
建築技術の高度化に伴い、構造や設備など得意分野ごとの分業化が進むなかで、設計業務そのものを再委託しているにもかかわらず、納品される設計図書には元請建築士のみが記名押印するなど、建築士の責任分担が不明確になっていること
- 建築士事務所の業務実施体制の重層化
再委託などにより、設計等の業務が重層化しているなかで、業務を再委託している建築士の情報を正確に把握していないなど、業務実施体制が適切に管理されていないケースが見られること
改正建築士法の概要 〜高度な専門能力を持つ建築士が設計を行う制度に〜
現行の建築士制度が抱えるさまざまな課題を踏まえて、平成18年12月20日に「建築士法等の一部を改正する法律」(改正建築士法)が公布されました。この法律は、本年11月28日から施行されます。
以下、その主な改正内容を紹介しましょう。
1.建築士の資質・能力の向上
- 定期講習の義務づけ
設計・工事監理等の業務を「業」として行う建築士は、業務を実施するのに必要な能力を確実に身につけておく必要があります。そのため、建築士事務所に所属している建築士には、3年ごとに定期講習を受講することが義務づけられます。
定期講習では、講義(おおむね5時間)の後、○×式の修了考査が実施されます。修了考査で及第点に達しなかった場合は、再受講が必要です。
定期講習は、登録講習機関が実施します。登録講習機関には、法令に定める一定の条件を満たせば、株式会社、公益法人を問わずなることができます。なお、定期講習の受講歴は、建築士名簿に記載されることとなる予定です。
- 建築士試験の受験資格要件(学歴要件と実務経験要件)の見直し
建築士試験の受験資格である学歴要件は、「所定の学科卒業」から「国土交通大臣が指定する建築に関する科目を修めて卒業」に変更されます。この見直しは、平成21年度の入学生から適用されます。法施行日(本年11月28日)の時点で、すでに所定の学科を卒業している方や在籍中の方については、経過措置として、これまでの学歴要件が適用されます。なお、所定の科目(指定科目)に適合しているかどうかの確認は、大学などの申し出に応じ、財団法人建築技術教育普及センターが行っています。
一方、実務経験要件は、設計・工事監理に関する実務、建築工事の指導監督に関する実務、建築一式工事の施工の技術上の管理に関する実務、建築確認・検査等に関する実務など、「設計・工事監理に資する実務」に限定されます。この見直しは、本年11月28日以降の実務経験について適用されます。なお、それまでの実務経験は、引き続き実務経験期間としてカウントされます。
2.高度な専門能力を持つ建築士による設計(構造設計・設備設計)
- 構造設計一級建築士・設備設計一級建築士制度の創設
今回、新たに構造設計一級建築士と設備設計一級建築士の資格が創設されました。どちらも高度な構造設計・設備設計の実務能力や専門能力を身につけた一級建築士です。
これらの建築士になるためには、一級建築士として5年以上、構造設計・設備設計に従事した後、構造設計一級建築士の場合は3日間、設備設計一級建築士の場合は4日間の講習を受け、その最終日に実施される修了考査に合格しなければなりません。
なお、構造設計一級建築士・設備設計一級建築士は、一級建築士定期講習とは別に、構造設計一級建築士定期講習・設備設計一級建築士定期講習を3年ごとに受ける必要があります。
- 一定の建築物に対する法適合チェックの義務づけ
高度な専門能力を必要とする一定の建築物の構造設計・設備設計については、構造設計一級建築士・設備設計一級建築士の関与が義務づけられます。この場合の関与とは、構造設計一級建築士・設備設計一級建築士が自ら設計するか、構造設計一級建築士・設備設計一級建築士以外の一級建築士が行った建築物の構造設計・設備設計が法律で定められた基準を満たしているかどうか確認することをいいます。この規定は、平成21年5月27日以降に構造設計・設備設計がなされた建築物に対して適用されます。
〔構造設計一級建築士の関与が義務づけられる建築物〕
高度な構造計算が義務づけられる建築物(建築士法第3条第1項に定める建築物のうち建築基準法第20条第1号、第2号に該当する建築物)が対象となります。例えば、木造で高さ13メートルまたは軒高が9メートルを超える建築物、鉄骨造4階建て以上の建築物、鉄筋コンクリート造で高さが20メートルを超える建築物などです。
〔設備設計一級建築士の関与が義務づけられる建築物〕
3階建て以上で床面積が5,000平方メートルを超える建築物が対象となります。
なお、これらの建築物で、構造設計一級建築士・設備設計一級建築士が関与していない場合、建築確認申請書は受理されません。
資料提供:国土交通省
3.設計・工事監理業務の適正化と消費者への情報開示
- 建築士事務所を管理する管理建築士の要件を強化
管理建築士は、建築士事務所を管理し、技術的な総括をする立場にあります。これまでは、建築士であれば誰でもなることができましたが、今後は、建築士として3年間の実務経験を積んだ後、管理建築士講習を受講・修了しなければ、管理建築士になることができなくなります。
講習では、建築士法などの関係法令、業務の進め方や経営管理、紛争防止などに関する講義(おおむね5時間)を受けた後、○×方式の修了考査が実施されます。修了考査で及第点に達しなかった場合は、再受講が必要です。
- 管理建築士などによる重要事項説明の義務づけ
建築士事務所の開設者は、管理建築士やその他の当該事務所に所属する建築士に、設計・工事監理契約を締結する前に、あらかじめ建築主に対して重要事項を説明させることが義務づけられます。
重要事項としては、作成する設計図書の種類、工事と設計図書との照合方法、工事監理の実施状況に関する報告方法、担当する建築士の氏名、報酬の額や支払いの時期、契約の解除に関する事項などがあります。
- 再委託の制限
委託者が許諾した場合であっても、建築士事務所以外への設計・工事監理の再委託が禁止されます。
また、3階建て以上で床面積が1,000平方メートル以上の共同住宅の場合は、委託者が許諾した場合であっても、設計・工事監理を一括再委託(いわゆる丸投げ)することが禁止されます。
- 建築士名簿の閲覧、顔写真入りの携帯用免許証の交付
建築士名簿を閲覧できるようになります。また、一級建築士の免許証が顔写真の入った携帯用のものに変更されます。
さらに、建築士・建築士事務所などの登録・閲覧業務を行う指定法人制度が創設されます。これまで国土交通省や都道府県が実施していたこれらの業務は、それぞれが指定する機関(中央指定登録機関、都道府県指定登録機関、指定事務所登録機関)にアウトソーシング(外部委託)することができるようになります。その場合、建築士名簿は、これらの機関で閲覧することができます。
4.団体による自律的な監督体制の確立
都道府県の建築士事務所協会、建築士事務所協会連合会を法律に明文化して位置づけます。これらの団体は、苦情の解決や研修などの業務を行います。この措置は、平成21年5月末までに施行される予定です。
今回の建築士法の改正は、建築士の資質・能力の向上、建築士事務所の業務の適正化などを図り、構造計算書偽装問題によって失われた建築物の安全性や建築士制度に対する国民の信頼を回復させることを目的としています。安心して使える建築物づくりに向けて、新しい建築士制度が始まります。
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