希少な野生生物を守る 「種の保存法」

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私たちとともに一つの生態系をなす多種多様な野生生物。しかし人間の活動によって、生物の絶滅がとても速いスピードで進行しています。そこで、希少な野生生物を守るため、平成25年6月より、その生体や剥製、皮製品などの加工品などの違法取引の規制・罰則が強化されました。今回は、多様な野生生物が果たす役割や我が国の野生生物保護のための取組について、分かりやすくご紹介します。

1野生生物を取り巻く環境は?人間のさまざまな活動によって、生物の絶滅スピードが桁違いに

地球上の生物は、およそ40億年にもわたる進化の歴史で様々な環境に適応してきました。現在、世界で確認されている生物だけでも約175万種、未知の種も含めると500~3,000万種が生息していると言われています。地球の豊かな自然は、こうした多種多様な野生生物がつながり合って形づくられており(これを「生物多様性」と言います。)、私たちにとっても大切な「資源」となっています。しかし現在、その野生生物を取り巻く環境は、開発による生息地破壊や土壌・水質汚染、地球温暖化、乱獲・外来種の持ち込みといった人間の活動によって急速に悪化しており、その結果、かつてないスピードで野生生物が絶滅しています(下図参照)。
一度でも失ってしまった生物は、人の手では作り出せず、二度と元に戻すことはできません。

地球上の生物は、長い時間を経て多様な進化を遂げている

イラスト提供:環境省

それを防ぐために、野生生物の生息・生育環境の保全、乱獲の防止、絶滅のおそれのある種の保護増殖といった様々な取組が行われています。その一例として、「ワシントン条約」があります。これは、無秩序な採取・乱獲などから絶滅のおそれのある野生動植物の種の保護のために、国際取引を規制しているものです。日本は昭和55年に批准しており、「外国為替及び外国貿易法(外為法)」で輸出入を規制しています。

そして、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(通称:種の保存法)」(平成5年施行)によって、絶滅のおそれがある野生生物の国内での取扱いを規制しています。

しかし、こうした希少生物の違法取引が後を絶たないことから、平成25年6月に「種の保存法」が改正され、罰則の大幅強化などが盛り込まれました。

「生物多様性」とは?

地球上で暮らしているすべての生命は一つひとつに個性があり、直接または間接的につながり、支え合って生きています。生物多様性とは一言でいうと「生き物たちの豊かな個性とつながり」であり、次の3つのレベルの多様性があるとされています。

  1. 「生態系の多様性」:森林や里地里山、河川、湿原など様々なタイプの自然があること
  2. 「種の多様性」:動植物から微生物まで豊富な種類の生き物が存在すること
  3. 「遺伝子の多様性」:例えば人間の顔・体つきに個人差があるように、同じ種でも異なる遺伝子をもつことで多様な個性があること

私たちは、暮らしに欠かせない水や食料、木材、繊維、医薬品をはじめ、様々な生物多様性の恵みを受け取っています。生物多様性がある豊かな自然は、私たちの命と暮らしを支えており、今後もこの恵みを受け取り続けるためには自然を賢く利用することが必要です。

自然のめぐみ

画像をクリックすると拡大画像を表示します

イラスト:環境省

2「種の保存法」とは?希少な野生生物を保護するため、「取引規制」「生息地保護」「保護増殖」を規定

種の保存法では、外国産および国内に生息・生育する希少野生生物の保護を次のように規定しています。

(1)個体などの取引規制

この法律により「国際希少野生動植物種」「国内希少野生動植物種」または「緊急指定種」に指定された種が規制対象になります。生きている個体(生体)のほか、剥製標本器官(羽・毛・皮・牙など)加工品(毛皮の敷物、皮革製品、漢方薬など)も含まれます。

象牙

写真提供:環境省

[1]国際希少野生動植物種

外国産の希少野生生物のうち、次に該当する種(国内希少野生動植物種は除く)

  • ワシントン条約 付属書I 掲載種(コラム1参照)
  • 二国間渡り鳥など保護条約・協定 通報種(条約・協定は、日米、日豪、日中、日露で締結)
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ワシントン条約 附属書I掲載種の例
(アフリカゾウ、トラ、チンパンジー、オオバタン、アカウミガメ)

[2]国内希少野生動植物種

日本国内に生息・生育する野生生物のうち、次に該当する種

  • 絶滅のおそれのある種(環境省レッドリスト(コラム2参照)の絶滅危惧I類及びII類に該当)のうち、人為の影響により生息・生育状況に支障を来す事情が生じている種
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国内希少野生動植物種の例
(ヤンバルクイナ、オガサワラシジミ、アツモリソウ)

(2)生息地保護

生息・生育環境の保全を図る必要があると認められた国内希少野生動植物種については、生息地等保護区を指定し、その区域内における開発行為などを禁止しています。

(3)保護増殖(増殖のための保護)

個体の繁殖促進、生息地などの整備などの事業推進をする必要があると認められる国内希少野生動植物種については、保護増殖事業の計画策定および実施を行っています。

シマフクロウ
写真提供:環境省

コラム1

「ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)(※1)」

自然のかけがえのない一部をなす野生動植物の特定の種が過度に国際取引に利用されることのないようこれらの種を保護することを目的とし、絶滅のおそれのある野生動植物種を、絶滅のおそれの度合いに応じて「附属書Ⅰ~Ⅲ」までの3つのランクに分類、規制しています。

なお、日本は昭和55年(1980年)に締結し、平成28年(2016年)4月現在の締約国数は182か国・地域にのぼります。海外では希少な野生生物の剥製や加工品などが流通している場合がありますが、現地で購入しても、附属書に掲載のある種については原則、日本国内への持込できません(許可書があれば持込可となる場合もあります)。

※1:略称は「CITES(サイテス):Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora)」

ワシントン条約による輸出入の規制

  掲載基準 規制内容 対象種(※2)の例
附属書
I
絶滅のおそれのある種で、取引による影響を受ける、あるいは受けるおそれのあるもの
  • 商業目的のための取引禁止
  • 学術目的(繁殖目的を含む)の取引は可能
  • 輸出国、輸入国双方の許可書が必要
ジャイアントパンダ、アフリカゾウ、トラ、チンパンジー、クモノスガメ、アジアアロワナなど
附属書
II
現在は、必ずしも絶滅のおそれはないが、取引を規制しなければ絶滅の危機のおそれがあるもの
  • 商業目的の取引は可能
  • 輸出国政府が発行する輸出許可書が必要
ホッキョクグマ、トモエガモ、カメレオン、ピラルクなど
附属書
III
締約国が自国内の保護のため、他の締約国の協力を必要とするもの
  • 商業目的の取引は可能
  • 輸出国政府の発行する輸出許可書、または原産地証明書などが必要
ワニガメ(アメリカ)、セイウチ(カナダ)、ハナガメ(中国)、タイリクイタチ(インド)など

※2:2~3年に1度開催されるワシントン条約締約国会議において更新。

さらに詳しくはこちら

コラム2

環境省レッドリスト

国内に生息・生育する野生生物の絶滅の危険性について、環境省が公表する基礎的資料で、生物学的観点から個々の種の絶滅の危険度を評価し、選定した絶滅のおそれのある種の一覧(必要に応じて随時見直し)。

なお、同リスト掲載種の生息状況や存続を脅かす原因などを解説した書籍を「レッドデータブック」(写真)(おおむね10年ごとに刊行)といいます。

詳しくはこちら

3規制や罰則の内容は?法律の改正によって「広告」も禁止され、罰則が大幅に強化

種の保存法の対象となる生物種の個体(生体及び剥製・標本)・器官・加工品の取扱については、次のように規制されています。

主な規制内容

(1)譲渡しなどの禁止

具体的には、「あげる・売る・貸す/もらう・買う・借りる」などの取引のことで、有償・無償を問わず原則として禁止されています(国際希少野生動植物種は例外あり(後述))。

(2)販売・頒布(はんぷ(※1))を目的とした陳列・広告の禁止

店頭などでの販売や頒布目的の「陳列」も原則禁止です。実物を伴わない写真掲載については、新聞・雑誌・チラシなどの紙媒体やインターネットなどへの掲載も「広告」として規制対象に加えられています。なお、(1)同様に国際希少動植物種は例外事項があります(後述)。

※1)品物や資料などを広く配ること。

インターネットや紙媒体への掲載も原則禁止に

(3)捕獲などの禁止(国内希少野生動植物種のみ)

生きている個体の捕獲・採取・殺傷・損傷が原則禁止ですが、学術研究・繁殖・教育・個体の生息(生育)状況の調査目的に限り環境大臣の許可によって可能です。

違反時の罰則

平成25年7月から、違法取引に対する罰則の上限が大幅に引き上げられています。

違法取引の価格例

  • 「ヘサキリクガメ(写真左)」:2匹で700万円
  • 「スローロリス(写真右)」:1頭で30万円
  • 「象牙」:47本で1700万円(1本当たり約36万円

写真提供:一般財団法人 自然環境研究センター

違法な取引・捕獲に対する罰則

違法な
譲渡
捕獲
輸出入
(個人)
5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金
(法人)
1億円以下の罰金
違法な
陳列
広告
(個人)
1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金
(法人)
2,000万円以下の罰金

4ペットとして販売できる?国際希少野生動植物種は登録票が必要。ただし、取扱いにはさまざまな規制あり

希少な野生動物をペットとして販売する場合、国際希少野生動植物種でかつ、ワシントン条約の附属書I掲載種のうち、以下の登録要件に該当する個体などについては、環境大臣の認定を受けた登録機関に登録申請することで、ペットとして陳列・広告や販売が可能になります。なお、国内希少動植物種については、商業的に繁殖可能な種(特定国内希少動植物種)を除き、商業目的の取引は禁止されています。

●登録要件
下記の要件をいずれか満たす国際希少野生動植物種

  1. 国内で繁殖させた個体や、その器官・加工品
  2. 規制の効力発生前に国内で取得した個体・器官・加工品
  3. 関税法の許可を受けて輸入された個体・器官・加工品

●申請手続き
環境大臣の認定を受けた下記の登録機関が受け付けています。ただし、必要事項は上記の要件1~3によって異なるので、直接お問い合わせください。

【登録機関】
一般財団法人 自然環境研究センター

●登録票の交付
登録を受けた個体には、登録記号番号・種の名称・個体の区分・主な特徴などが記載された「登録票」(写真)が交付されます。

登録票
写真提供:環境省

●登録後の個体の取扱い
登録票の交付を受ければ、商業的目的で繁殖させた個体の譲渡しなどの取引は可能となりますが、さらに以下の事項が義務づけられています。

  1. 販売・頒布目的での広告時、登録票があること及び登録記号番号を明示
  2. 譲渡しなどによる占有者の変更時(※1)のほか、譲渡しなどが行われなくとも占有者の氏名・住所(※2)が変わった場合も、30日以内に登録機関へ届出
    ※1)法律改正前より届出対象事項(譲受け・引取りをした者が届出を行う)。
    ※2)法人の場合は名称や代表者名、事業所の所在地など
  3. 所有する個体が死亡して剥製や標本にした、といった個体の状態に変更が生じた場合、その後も譲渡しなどを行うときは、登録票の「区分」の変更登録が必要

従来は、この手続が未規定であったため、区分変更が発生した場合の登録票と個体などの対応関係が不明確でした。譲渡しなどを行わない場合(死亡した個体を廃棄する場合も含む)は、変更登録をする必要はありませんが、「登録票の返納」が必要となります。なお、登録票が返納された場合、その後、譲渡しなどは出来ません。

希少な野生動植物を飼育・販売する方は、その生物が規制対象種に該当するかどうかを確認し、もし該当する種の場合はルールを厳守してください。また、購入を希望する方も、事前にその重大性を考えるとともに、登録票がない個体の購入は絶対に避けましょう。

5野生生物を守るために我が国では「野生鳥獣の保護・管理」「特定外来生物などへの対応」「遺伝子組換え生物対策」なども推進

我が国における野生生物の保護・管理に向けた取組は、「種の保存法」以外にも、「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法)」、「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(外来生物法)」そして、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(カルタヘナ法)」によって推進されています。また、条約・協定などの国際協力によって、渡り鳥の保護などを進めています。

日本の野生生物保護体系

図表提供:環境省

野生鳥獣の保護・管理

「鳥獣保護管理法」に基づき、国内に生息する鳥獣の捕獲規制、鳥獣保護区(※)の指定などのほか、著しく増加または減少した鳥獣の計画的な保護・管理や、狩猟免許制度などによる狩猟の適正化を推進しています。

※平成26年12月末現在で、全国3,799箇所(約365万ヘクタール)が対象

ニホンジカ
写真提供:環境省

特定外来生物などへの対応

海外から持ち込まれる外来生物のうち、我が国の生態系などに被害を及ぼす、またはそのおそれのある生物を「特定外来生物」として指定し、輸入・飼育などを規制するとともに、被害の状況に応じてその生物の防除事業も行っています。

オオクチバス フイリマングース オオハンゴウソウ

写真提供:環境省

写真提供:一般財団法人自然環境研究センター

 

遺伝子組換え生物対策

バイオテクノロジー技術を用いて新しい性質を組み入れられた遺伝子組換え生物が、生物の多様性に悪影響を及ぼす可能性も懸念されていることから、カルタヘナ議定書(※)に基づくカルタヘナ法の的確な運用によって生物多様性の保全を推進しています。

※遺伝子組換え生物の輸出入に関する国際的な枠組みを規定(平成15年9月発効)

詳しくはこちら

(取材協力 環境省 文責 政府広報オンライン)

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