国土強靱化シンポジウム in 岡山~水害に備えて~

パネルディスカッション
「国土強靱化で
私たちがすべきこと」

(敬称略)

私たちがすべきこと

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中西

中西

平成30年7月豪雨災害は大変ショッキングな出来事でした。被災地の倉敷市真備(まび)町に翌8月、ボランティアとして訪れましたが、見慣れた美しい、のどかな風景が一変していました。私たちが安全、安心な暮らしをするため取り組まなければならないのは防災・減災の取組、そして国土強靱化です。このパネルディスカッションでは、国土強靱化について私たち一人一人が何をすべきかを議論していきたいと思います。まずは小谷さん、市民の一人として災害が多発するこの時代をどうお考えですか。

小谷

小谷

平成30年7月豪雨災害には本当に胸を痛めました。昔は、世界のアスリートから日本は平和で安全な国なので行ってみたいとよく言われましたが多くの自然災害が起きた近年は逆に世界の仲間たちから励ましやお悔やみのメッセージをもらうようになりました。2011年の東日本大震災後、日本のアスリートはたくさん現地に足を運びました。あの時、多くのアスリートは「こんな時にスポーツをやっていてよいのか」と自問自答しながら被災地に向かいました。被災地では子どもたちとスポーツをして一緒に汗を流しました。励ましに行ったつもりが「オリンピック頑張ってください」と逆に励まされた選手もいました。12年のロンドン五輪で日本勢はその時点で史上最高のメダル数を獲得しました。活躍を喜んでくれる被災者のために多くの選手が戦うようになりました。災害が起きた時、アスリートは被災者のために何ができるか、より良い方策を見つけていきたいと思います。

中西

中西

多くの企業や自営業者の方も被災しました。当時、井上さんの商工会議所ではどのような活動をなさったのですか。

井上

井上

被災事業所の経営相談に応じ、補助金申請のお手伝いなどをしました。また会員事業所以外の一般市民の皆さんに対しても独自の支援事業を展開しました。例えば、車のない方を対象とした避難所から仮設住宅への引越しサポートです。これはしっかりできました。関連地域の商工会議所、商工会と連携し、避難所の担当エリアを決めて対応しました。関係事業所などから人と車両を提供してもらい166台の車両を確保し、41世帯86人、そして猫1匹を運ぶことができた。今回の災害から倉敷商工会議所は大変大きな教訓を得ました。災害が起きたらすぐ支援体制を構築できるようなつながりを日ごろから十分築いていなければならないということを肝に銘じました。

中西

中西

農業の被害もありました。山本さんは農業と災害の関係をどう捉えていますか。

山本

山本

水がなければ農産物は育ちません。一方、過剰な雨は農業に被害を及ぼします。本当に難しい問題ですが、今回の豪雨災害を通じて、水を日ごろから上手にコントロールすることがいかに重要かをあらためて感じました。大規模災害で農業者が果たせる役割は小さいですが、集団としての農業者の力は大きい。今回の災害で農協は非常に重要な役割を果たせたと思う。被災地の農産物を早期に出荷するためにJAグループの支援を得て、被災後約1週間で選果場を復旧しました。またJA兵庫西から借り受けた移動金融店舗車を配置し、貯金の払い出しなど地域のインフラの一つである金融サービスを提供しました。また、2つの支店も早期に復旧できたことにより、復旧・復興はまだ道半ばですが「希望の明かりが少しは見えた」と農協組合員や地域住民に喜んでもらえたのではないか。

私たちがすべきこと

災害時の命の守り方

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中西

中西

災害から「命を守る」にはハード面の整備はもちろん、そもそも危険な所に住まない、あるいは素早く避難することも重要です。河川工学、防災工学の専門的な立場から災害の多発する時代の「命の守り方」について山田先生のご意見をお聞かせください。

山田

山田

豪雨災害が起きるたびに学生と一緒に被災地を調査します。現地のおじいさん、おばあさんは「私の知っている限りこんなに大きな洪水はなかった、だから安心していた」とよくおっしゃいます。しかし歴史的に調べてみると何回も洪水が起きている事実がわかります。きちんと歴史を勉強すると日本中どこでも洪水は起きているのです。この事実を大きな声で言い続けたい。だから、今日家に帰ったら、家族全員でまず自分の住んでいるところのハザードマップを見てください。そして今後、台風や豪雨が来たら家族でどう動くか、しっかりとした自分なりのシナリオを作ってほしい。もちろん想定通りの災害は起きないので、シナリオには柔軟に動ける構えを残しておくことが必要です。

中西

中西

国土強靱化のため国や自治体は様々な施策を展開していくことは当然ですが、住民一人一人も「自らの生命、生活を守る」ことが必要です。被害を最小限に必要な心構えなどについて、ご専門の社会心理学の視点から田中先生のご見解をお聞かせください。

田中

田中

「国土強靱化」とは難しい言葉です。ただ今日事例発表された原田浩さんが「継続的な支援で心が折れなかった」とおっしゃっていたのを聞き、それが国土強靱化の本質という気がしました。偶然ですかこの会場の住所は岡山市柳町(やなぎまち)です。柳は少々の雨風はしのいで受け流して、けして折れない。葉っぱの1枚2枚は飛ぶかもしれないが、とにかく折れない。国土強靱化の本質は、この柳のように、たやすく折れない社会、地域ではないか。その中で、自助・共助・公助という言葉が出てまいりました。正直あまり好きではない。一見して分かりやすいが、その分かりやすさ故にそれぞれがそれぞれの使い方をしてしまう。

例えば「公助が駄目だからと自助よろしく」といった受け止め方です。自助、共助って言われても、実際行おうとすると相当苦労します。だから自助・共助・公助の間をどう上手く連携、つないでいくか、むしろその組み合わせが大事だと考えています。例えば堤防や河川護岸の公助はとても大事。今まで使えなかった土地を宅地や田畑として使えるようにしてくれる。一定の洪水を防いでくれる。しかし、想定外の大規模災害では防ぎきれない。練習なしにいきなり本番に直面することになります。それでも、堤防や河川護岸は避難の時間を稼いでくれる。避難という自助をハードの堤防、護岸の公助が支える関係です。ある地域では、避難場所を住民自身が決める。決めた後に市が避難路を作る。これも自助を支える公助、あるいは共助を支える公助です。保険という共助を前提とした自助も大切で、農協の建更(たてこう、建物更生共済)は自助を支える大変優れた制度です。

このように充実した公助や共助の準備があって初めて最後に避難という自助のスタートラインに我々は立てるわけです。予想される災害を考えるうえで、大事なハザードマップも大きすぎると貼る壁もなく、しまい込んでしまい、災害時は見る余裕もない。災害時の避難でハザードマップを活用する仕組みがうまくできないのか、自助を支える公助のあり方を考えていく必要があります。そのためにはまず私たちが自助に必要な共助、公助を考え求めていく逆転の発想が必要と思います。

中西

中西

自助、公助、共助それぞれの視点からしっかり考えていかなくてはいけないです。では、まず水害をどう防ぐかという公助の部分、治水はどう考えたら良いですか、山田先生。

山田

山田

10年くらい前までは「治水、防水対策はもう十分だろう」という国民の合意みたいなものがありました。しかし、昨今のように洪水や津波、高潮災害が次々と起こるようになると、今度は「なぜもっと防災対策を進めてくれてないのか」と、世論がころりと変わります。これでは駄目です。日本は地震がある、津波は来る、高潮がある、洪水がある。そして、洪水にも都市型豪雨や線状降水帯による豪雨もあり、ほとんどの地域が被災する可能性がある。

こんな先進国はない。アメリカにはハリケーンは来るけれど地震は来ない。ヨーロッパは、ほとんどハリケーンや台風は来ない。だから、日本がお手本とする先進国はない。日本は自分で考えるしかないのです。災害に対するハードとソフトの一定レベルでの対策をずっと続けていかなければいけません。日本の国土を守るにための一定の投資を続けざるを得ないのです。そしてこの対策というのは国だけがやるものでもありません。国や地方自治体、NPO、市民の“総合力”で「自然とどう付き合うか」という「防災」対策を考えていかなければ駄目です。

強くしなやかな柳のような国土に

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中西

中西

これまでの5人のパネリストの議論を聞いていかがですか、小山さん。

小山

小山

先ほど田中淳先生から柳の例えがありました。まさしく強靱化で目指しているのは「強くしなやかな柳のような国土」です。ただその「しなやかな部分」は国中心でできるものではなく、やはり民間の方々の努力が非常に大きな部分を占める。国は緊急3か年対策など国土強靱化に取り組んでいますが、しなやかな部分は、民間の方々の自助、共助の役割が大きいので、是非その部分のご努力を民間の皆さまにお願いしたいところです。また、先ほど山本理事や井上会頭から、それぞれ農協や商工会議所における共助的な部分のご活躍のお話しがありました。先ほど概要をご説明した「中小企業等経営強化法等の一部改正」には農業を含む小規模事業者の事業継続強化の取組を重視した規定があります。引き続き共助の力で支え合っていただきたい。国や自治体も当然できることは一生懸命やっていきます。

中西

中西

同じく、梶田さんはいかがですか。

梶田

梶田

先ほど山田先生から「ハザードマップを見てください」、田中先生から「いきなり大災害に直面する社会になっている」というお話しがありましたが、同感です。最近ずっとそう感じています。柳町の例えに関連して言うと、今回甚大な被害を受けた倉敷市真備町は竹、タケノコの産地です。竹のイメージは非常にしなやかで強い。倉敷市では昔、家を建てる時、竹を描いた掛け軸を屋根裏に置くことがあり、我が家にもありました。真備地区は大変な状況ですが、現在の逆境を竹のようにしなやかに跳ね返して、より強い真備地区として復興し、その復興のノウハウを倉敷市、日本、世界全体に発信できるように、みんなで一生懸命頑張っていきたい。また田中先生の「いきなり避難しろと言われてもなかなかできない」というご指摘は、行政として耳の痛い問題で常々どうしたらよいか考えており、今回の豪雨でも反省しているところです。そこで倉敷市としては、地区で起こりうる災害やその対応方法について、住民同士が話し合って決める「地区防災計画」の取り組みを今年度から始めます。市としては、住民の皆さまをしっかりと支援してまいります。

中西

中西

小谷さんは普段の生活する中で「自助」「公助」について考えることはありますか。

小谷

小谷

非常に言いにくいことですが、東京で生活し、しばらく災害がないと自助意識は薄れてしまいます。最近は防災のことより、世界的な問題としてたくさん報道さている「プラスチック問題」へ意識や関心が向かっています。災害がない時でも報道機関には自助の意識付けにつながるような報道を是非続けてほしいと思います。

自助に関しては小さなことですが、大学で教えているシンクロの最初の授業で、水の中での上手な浮かび方、水の中でしっかり息を吸って力を抜くと体が浮くことをまず教えています。その際、スマトラ沖地震の津波で奇跡的に助かった日本人家族の話をします。「一回水に沈んでも待っていれば浮かび上がってくる。冷静になって浮かぶのを待て」と言うお父さんの教えを守って家族は助かりました。もちろんケースバイケースで、そうすれば必ず助かるわけではありませんが、学生には「しっかり息を吸って力を抜けば水の中で浮く」体験をしてもらう。まずプールの中で学生同士、がんがん沈め合います。水深30センチもあれば人は溺れます。水中で体が回転してしまうとパニックになります。水の中でのパニックは危険で、冷静になることが必要と教えるためです。どっちに水を押せばどっちに体が浮くかも教えます。小さな、小さな努力ですが、学生に体で自助の大切さを知ってもらうため今後も続けていきます。自助は仲間作りも大切です。

何かあった時、普段からコミュニケーションをとっている近所に頼れる存在がいるととても安心です。先ほど田中先生が柳の話をしましたが、私たちスポーツ選手はまさに柳です。オリンピックに行くのに何でこんな思いをしなければいけないんだというくらい、スポーツ選手は打たれ、攻撃されます。しかし、みんなそうした攻撃を上手にかわしながら前に向かいます。オリンピックという目標があるからです。先ほどの事例発表で原田さんが「周りの方々の支え、応援、継続的な支援が希望、勇気につながった」とおっしゃったことと重なると思います。眼の前に目標、希望があるからこそ、前に進めます。柳のようにしなやかに前に進んでいくにはやはり継続的な支援が必要です。スポーツ界としても継続的な災害支援をできる限りやっていきたい。

強くしなやかな柳のような国土に

地域での防災・減災対策

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中西

中西

小谷さんから近所で助け合う「共助」の話がありました。地域の経済団体として共助の活動も行う商工会議所はこれから大災害に対してどのような減災、防災の取組を進めていきますか、井上さん。

井上

井上

商工会議所は地域に根差した総合経済団体で、様々な業種の事業所によって構成されています。事務局には一定数の職員がいるので、事業所、地域のために力を発揮することができると自負しています。災害時の対応は行政が中心になります。被災地支援の最前線に立つ市町村にわれわれ民間ができるだけ協力することが、最も効果的な減災、防災対策になります。

また防災、減災の問題だけでなく普段から行政と連携し、さまざまな課題に取り組んでいくことが地域の活性化につながります。災害時に民間企業にとって一番大事なことは、自らの企業、従業員を支援することです。平成30年7月豪雨について倉敷商工会議所は議員事業所対象のアンケートを実施し、災害時に必要な対策や行政への要望を調べました。それによると、

▽従業員の安否確認体制の構築

▽被災者の情報収集

▽従業員の自宅の復旧サポート

▽被災従業員への飲料水提供

▽被災従業員の優先的有休取得

▽災害見舞金の支給、カンパ

▽被災従業員への人材、人的、復帰支援

―などが必要と分かりました。こうした従業員を守るためのマニュアル、就業規則を事業継続計画(BCP)の中で整備しておくことも大変重要です。

行政への要望では、

▽天災に対する防災意識の啓蒙

▽地域ごとの避難場所・避難経路の確認

▽対処マニュアルの作成・配布

▽学校教育の中での防災の取組推進

▽道路渋滞状況をホームページで広報

▽ライフラインの復旧

▽衛生面の対応

▽迅速なごみ処理

▽被災者支援に対する国、自治体窓口の集約

▽河川堤防の迅速な決壊対策実施

▽ボランティアセンターの円滑な運営

―などが挙がりました。こうした指摘を踏まえ、我々経済界も行政と協力しながら対応をしていきたい。地域との関わりの中で企業、事業所は被災地を支援することも大事です。ここにも地域の総合経済団体としての商工会議所の役割があります。行政との連携の必要性を強調しましたが、緊急時に行政から得た情報を会員事業所へ迅速に伝達する点でわれわれ商工会議所には今回課題が残りました。現在課題解決のため、情報技術(IT)強化などの対策を検討しています。

中西

中西

今後の農協としての防災・減災対策をどうお考えですか、山本さん。

山本

山本

岡山県は「晴れの国」と呼ばれて自然災害が非常に少ないイメージがありましたが、今後は自然災害がいつ発生してもおかしくないと感じました。農協は、相互扶助の精神の下、農家の営農と生活を守り、より良い社会を築くことを目的とした協同組合です。今回の災害でも相互扶助の精神で生産組織や女性部組織を通じて、また全国のJAグループと連携を図り、復旧・復興を支援してきました。農地には農産物を生産するだけでなく、洪水や土砂崩れ、土壌侵食を防止するなど多面的な機能があります。農地を維持管理することは防災や減災対策につながる。

近年、農業者の高齢化や担い手不足で、耕作放棄地が増え、放棄面積は約40万ヘクタールを超えます。農地の多面的な機能を維持、発揮するには耕作放棄地の解消が急がれます。こうした農地の防災上の多面的な機能はあまり知られていません。JAグループと行政が連携し、農地の多面的機能に対する国民理解の醸成に努める必要があります。耕作放棄地の解消のため、農協は自ら出資して農業法人を立ち上げ農作業の受託事業に取り組んでいます。そのほか営農組合の設立支援、果樹・野菜の生産組合、新規就農者への支援など、耕作放棄地の解消や農地の保全に努めています。今回の災害を通じてより一層組織の連携や農地の多面的機能の醸成に努めていかなければならないと考えています。

現在でも行政等に対応していただいていますが、被災農業者の声として、

▽現状に戻すのではなく将来を見据えた復旧

▽農地だけなく周囲の地域全体を見えた減災、防災対策の実施

▽ため池決壊防止の水路改修

▽災害時の復旧を円滑化する農道や園内道を改修

―など挙がっています。これからも農協は、行政や地域と連携して災害のない地域づくりに取り組んでいきます。

我が国の防災対策
(最後にひとこと)

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中西

中西

我が国の防災対策の大きな課題は何ですか、山田先生。

山田

山田

一般論を言っても分かりにくいので具体例で説明します。水害時、絶対に水に浸けてはいけない場所があります。病院や病院の発電施設です。それから災害対策を指揮する市役所。市役所が水に浸かったら指示も出せません。4年前の鬼怒川決壊では常総市役所が水に浸かってしまいました。その常総市ですが、災害後、若者が大幅に減ってしまいました。この事実は統計には出てきません。若者の雇用の場であった中小企業の復興がまだ十分でない、若者の多くが住むアパートがリニューアルされないことなどから、若者がいなくなってしまいました。

防災教育にも課題はあります。例えば、小学生に洪水の啓発ポスターを描いてもらうという防災教育もあるが、小学校には「ポスターを描いてほしい」というたくさんのリクエストがあり、洪水ポスターまで入り込む余地がない。市の教育委員をしていたのでこのあたりのポスター事情はよく知っています。防災教育というけれど簡単にはできない。また本格的な防災教育をやるならば、小中学校の先生を再教育しなければならない。それは誰がやるのですか。

また自然に対する若い人の感性が大きく変わってきていることも防災上では大きな問題です。東京の学生は、自然に対する感性が抜けています。河原でたき火をしようとしてマッチで火をおこそうとしても、誰もマッチを持っていないし、マッチを擦ったこともない。また、東京の学生を田舎の川に連れて行ったら、「先生、川底が見えます」と驚く学生がいるくらいです。川底の見えない東京の川しか見たことがないから、川底を見るのが初めてだという。そのくらい今の日本人は自然の中で育まれる野生の感性が抜け落ちてしまっています。さらに「治水」に対する理解もおかしい。治水、水を治めるという言葉は、対応する適切な英語がない。治水は「地域づくり」「国づくり」そのものです。中国と日本にしかない概念です。治水の奥深さをもう一回みんなが勉強すべきだ。2200年前に中国で作られた巨大な四川省の農業施設「都江堰(とこうえん)」には1メートル以上の大きな字で毛沢東さんが「治水」と書いています。農業施設は治水です。日本人は治水を水害対策と考えていますが、治水は「水の総合マネジメント」です。この点をもう1度理解することが大切です。

中西

中西

同じ質問ですが、田中先生はいかがですか。

田中

田中

平成30年7月豪雨の後、災害情報では命が救えないのではないか、自分のやってきた災害情報研究は無意味じゃなかったか、とある意味絶望に襲われました。しかし真備町など被災地の方のお話しを聞き「そんなことはない」と思い直しました。そう思うに至った被災地で聞いたお話しを紹介します。被災地で排水ポンプが止まった地区がありました。それを合図に住民の避難が始まったそうです。住民の方に「よく避難の合意ができましたね」と聞いたら「みんなポンプが止まったら、やばいということを知っている」とあっさり答えられました。もともとその地区は水に浸かる地域だから排水ポンプがあった。それが壊れたくらいだから「大変だ」という共通認識を日ごろからみんな持っていたそうです。排水ポンプの停止という災害情報から危険を読み取り、命が助かったわけです。

住民のある情報から危険を読み取る力はすごい、一人一人の住民の力は本当にすごいと思いました。もう一つは別の事例です。2年前の平成29年の九州北部豪雨の際、多くの人が「本家」に集まり助かったそうです。本家は高い所にあるのが普通。大雨の際、本家の人が「泊まっていけば」と声を掛け、それが避難に結び付いた。さっき小谷さんがおっしゃったように日常生活での関係、付き合いが大事です。日常生活の中でできないことは災害時もできない。災害時なら何とかできるだろと思ってもたぶんできない。日常の中での人間関係や知恵を地域で共有していく中で、被災者は減らせるのではないでしょうか。

中西

中西

お子さんをお持ちの小谷さんは母として緊急時の避難に関して何か不安はありますか。

小谷

小谷

東京に住んでいると水害よりも地震への危機感が強い。東日本大震災後、次女は何かあっても歩いて帰れるように地元の小学校に行かせました。一方、長女は電車に乗り継いで学校に行くので、学校から電車を使わずに歩いて帰る道のりを親子一緒に確認したり、途中立ち寄っても大丈夫な場所や最悪時に避難させていただける場所を確認しました。次女の通った小学校は避難訓練など防災の取組にとても熱心でした。小さな地震のちょっとした揺れでも娘たちは机の下に潜ります。小学校の防災教育の賜物です。ちょっとした揺れでも机の下に潜るという意識、緊張感を持つ重要性をそんな娘の姿から教えられました。「これくらいは大丈夫」と言ってしまったことがありとても反省しています。

中西

中西

最後にそれぞれのお立場から一言お願いします。

井上

井上

平成30年7月豪雨後、小田川と高梁川の合流点で付け替え事業が始まった。地元にとっては大変ありがたい。ただ、まだ堤防決壊のおそれのある危険箇所があり、改めて早急な整備をお願いしたい。さらに倉敷市の観光への被害が大きく、関係機関にはこの点のご支援をお願いしたい。

山本

山本

今回の災害では、地域の皆さん、ボランティアの皆さんに大変ご支援をいただき感謝している。国など行政機関の農業者への助成支援もありがたかったが、補助金をめぐり、要件が厳しすぎたり、高齢者の農業者には分かりにくかったり、周知ができていなかったり若干、現場が混乱しました。特に果樹業は成木になる期間が必要なので、それまでの所得保障をという声がありました。私たちの被災経験を今後の災害対策に生かしていただきたい。

小谷

小谷

アスリートとしての役割を改めて考えました。すごく上から目線に聞こえてしまうかもしれませんが、我々オリンピアン、パラリンピアンなどのアスリートを上手に活用してほしい。この岡山・広島・愛媛3県をはじめ全国にいろんなネットワークを整備してお役に立ちたい。パラリンピアンの方々は突然の絶望から這い上がっている経験をたくさん持っています。皆さん一様に「失ったものを嘆くよりも、あるものに感謝をして前に進みたい。周りの方々の支えが自分の力になっている」と言います。それを聞くたびに頭が下がります。被災者の方がこういう前向きな気持ちで前に進んでいただけるようスポーツ界としてできることをやっていきたい。

山田

山田

防災はきちんとした命令系統で組織的にやらないと駄目。バラバラにやっているととても非効率になって、災害に負けてしまう。役所の管轄は法律上、非常に細かく定められています。例えば、一級河川は国、国土交通省の管轄です。川の治水と一体化したまちづくりをやろうと思っても、そこのまちづくりを進めるのは市区町村の管轄です。治水と一体化したまちづくりを国と市区町村が一緒になってやるとようなプロジェクトはめったに見られません。まちづくりと一体化した水害対策をしっかりやるのであれば、内閣府や内閣官房など、どこかが全体を仕切る必要があります。

水害防止のアイデアはいろいろあります。例えば「二線堤」。堤防は想定以上の大雨が降ったら溢れます。二線堤は堤防から溢れた場合の備えの堤防。道路を二線堤と整備する方法もありますが、道路は道路であって堤防ではないと言われる。道路は堤防として使わせないということになってしまう。村落の周囲を堤防で囲む昔の「輪中堤」などももう一回復活させてもいい。これらのアイデアを本当にやろうとしたら土地の問題を含め大事になってしまい、ほとんど実現しないのが現実でしょう。関係する国なり県なり市なりが、河川系と道路系を一体化させて総力戦でやらない限り、巨大災害には勝てない。もちろん、このようなアイデアの検討は行政だけでやる時代ではなく、地域の声も含めたアイデアを持ち寄って、練り上げて行く必要があることは言うまでもありません。

中西

中西

本日のパネルディスカッションで、私たち一人一人が明日からできることと、根気強く続けなければいけないことを教えていただきました。どちらも大切にして災害に負けない社会づくりをしていきたい。パネリストの皆さん、会場の皆さま、本日は本当にありがとうございました。

我が国の防災対策
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