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Highlighting JAPAN

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ものづくり

工房織座(仮訳)

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愛媛県今治市の織物職人が旧式の織機を再生し、ユニークな質感とデザインのマフラーを織りあげた。そのものづくり職人の技とスピリッツに、柳澤美帆が迫る。

平織り(plain weave)、綾織り(twill weave)、繻子織り(satin weave)。この3つが織り物の基本と言われている。この基本をベースにしてさまざまにアレンジされた織物のパターンがあるわけだが、 その一つ“たてよこよろけもじり織り”を開発したのが、愛媛県今治市に「工房織座」を構える、武田正利さんだ。

“たてよこよろけもじり織り”

“たてよこよろけもじり織り”とは波紋のような、また魚の鱗のようにも見える独特の模様を浮かび上がらせる織り方だ。現在、多くの織物工場で使用されているのは大量生産が可能な高速織機だ。しかし、この“たてよこよろけもじり織り”を織り出しているのは、1970年頃まで主流であった低速織機だ。現在使われている高速織機は常に糸が張りつめた状態で織り進んでいくが、低速織機は織る際に生地にゆるみの余地が生まれるため、生地に凹凸をつけるという加工が可能であり、独自の模様が織り出されるのだ。

自らの工房を立ち上げる前、武田さんは約40年間、タオル工場に勤務していた。そこで出会ったのが旧式の織機だった。当時武田さんの工場でもすでに織機は高速化されていたが、社長が機織り機の資料館作りを思い立ち、社長命令を受けて、古い機織り機を探す業務を担当したのだ。「低速織機は、ゆっくり織り込んで行く過程で生地に空気が入ったようなふっくら感が生まれる。生地にぬくもりが感じられるところに魅力を感じたんです」武田さんは言う。

からくり佐吉の旧式織機を再生

しかしその後、不況で今治のタオル産業が徐々に活力を失っていく中、2005年に武田さんの勤めていた工場も規模縮小され、武田さんは職を失うこととなる。

これをきっかけに「量産体制のための機械ではできない、風合いのある織物を作ろう」と思い立った。 手の温もりが感じられる織物を作るために、まず低速織機を探し始めた。その中で最も古いのが、トヨタ自動車の創業者であり、「からくり佐吉」の異名を持つ豊田佐吉が開発した、約100年前に作られた豊田式織機だ。壊れてそのままになっているものを貰い受け、壊れた部品も工夫して修理し、組み立て直すことを繰り返して、やっと昔のように稼働させることに成功した。

低速織機は反物(ポップ)のサイズである約40cm幅の織物を一枚ずつ生み出していく着尺一列機である。

「着尺一列機は商品の幅なりで織っていくので、ほとんどが無縫製。だから美しく軽やかで、肌触りもよい商品が生まれるのです」

武田氏によると、スピードの遅い低速織機には、遅い分だけ手織機に近い自由な織り方、凹凸を加えるといった加工の可能性が残されているという。身に着けた人が心地よく感じる織り方を追求した結果開発されたのが“たてよこよろけもじり織り”だ。ゆっくりと織り込まれた生地は型くずれしにくく、空気の層が多くふわりとした手触りに仕上がった。

こうして2006年、創業の翌年には、早くも地元のえひめ産業振興財団が募集した「事業創出につながるビジネスシーズオーディション」で最優秀賞を受賞、2009年には第三回ものづくり日本大賞(経済産業大臣賞)受賞など、製品は徐々に知られるようになっていった。2010年に立ち上げたブランド「ITO (糸)」は、技術に裏付けられた高い品質と独創性、そしてモダンな色合いが評価され、日本産業デザイン振興会が主催するグッドデザイン賞、また同年12月には香港デザインセンターが主催するアジアデザイン賞(Design for Asia Award)を受賞した。現在工房織座の製品は、幅広い層から支持を得ている。「おしゃれで手軽、風合いとボリュームが楽しめる」と工房を訪ねた客の多くがリピータとなっている。

工房織座で現在稼働中の低速織機は豊田式織機2台を含む計7台。一日のマフラー生産量は一台30枚だ。

「生産量が限られていても、付加価値の高いものを作ればいいと思っています。いまも新しく作りたい織り物は頭にありますよ。ものづくりは無限大ですからね」

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