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Highlighting JAPAN

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特集環境と都市の成長

環境保全と経済成長の両立を可能にするコベネフィット・アプローチ(仮訳)

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開発途上国で日本は、環境汚染防止と温室効果ガス削減を同時に実現するコベネフィット(相乗便益)・アプローチを進めている。その取り組みを、ジャパンジャーナルの澤地治が報告する。

現在、気候変動の国際交渉における争点の一つは、開発途上国における温室効果ガス(GHG)削減である。先進国は途上国に対してGHG削減を求めているが、途上国には、GHG削減の対策が自国の経済発展に悪影響を与えるのではという警戒感が根強い。

「国際交渉の進捗に関係なく、気候変動の影響は増していきます。そのため、途上国でのGHG削減は、出来る範囲で今から進めなければなりません」と環境省水・大気環境国際協力推進室長の瀧口博明氏は言う。「こうした中、近年世界で注目を集めているのが、途上国の開発ニーズに即しながら、環境汚染対策とGHG削減を実現するコベネフィット・アプローチです」

コベネフィット・アプローチの具体的な事例としては、火力発電所の効率改善、工場廃水処理時のメタン回収・発電、公共交通網の整備などが挙げられる。

これらの分野において、先進的な対策を行ってきたのが日本だ。日本は1950年代後半からの高度成長期に深刻な公害を経験し、1960年代から官民が協力して、その対策に取り組んできた。さらに、1970年代の二度の石油ショックで、物価の急激な上昇など大きな影響を受けたことから、政府は省エネ制度の構築、産業界は省エネ技術開発を推進した。

このような取組の結果、公害は劇的に改善し、1970年代初頭から2000年代初頭までの約30年間でGDPは約2倍になったが、産業部門のエネルギー消費は横ばいのままという、効率的なエネルギー消費を実現している。

「日本の公害対策や省エネ対策は経済成長と両立していたのです」と瀧口氏は言う。「日本の役割として、これまで蓄積してきた経験や技術を活かし、途上国で技術、制度、そして人材の育成を支援していきます」

日本は、2007年に中国、インドネシアそれぞれとの間で、コベネフィット・アプローチの推進に向けた二国間協力に関する合意を結び、コベネフィット効果の共同研究や人材育成研修等を実施している。

人々の生活を変えるコベネフィット

その他、環境省は2008年から、コベネフィットCDMモデル事業を開始し、モデル事業に採択された民間事業に対して初期投資の半分を補助している。その一つに、タイで実施中の、エタノール工場の排水からのバイオガスを回収し、そのガスを工場の発電に利用するとともに、廃液の水質を浄化する事業がある。この事業は、CO2換算で年間約1.5万トンのGHG削減効果が見込まれている。

「コベネフィット・アプローチにより、大気汚染や水質汚濁を防止するだけでなく、CDMの主要な目的である、持続可能な開発にも貢献することができるのです」とパシフィック・コンサルタンツ地球環境研究所所長の山田和人氏は言う。

CDM事業と言えば、これまで再生可能エネルギーや工場でのフロンガス(HFC23)破壊など大規模な事業が主流であった。しかし山田氏は、今後は人々の生活と密接に関係する事業を、CDM事業化することが必要と考えている。山田氏が例に挙げるのが、日本ポリグルが取り組む安全な水の供給だ。

「安全な水を供給するためには、通常浄水過程で電気が必要になります。電気をあまり使わずに安全な水を供給できれば、その使わなかった分だけCO2の排出を削減したことと同じなのです。意識していなくてもコベネフィットになっている事例はたくさんあるのです」

現在、山田氏がコベネフィット・アプローチとして取り組んでいるのが、中国の南京市にある下水処理場(予定)で、下水汚泥をYM菌により堆肥化する事業だ。YM菌とは日本の山有(株)の山村正一氏が発見した微生物で、下水汚泥や生ゴミといった有機物にYM菌を混ぜ、空気を送り込むと、有機物が100度を超える高温となり発酵・分解される。そして悪臭も発生せず、45日程で良質な肥料となるのだ。下水汚泥が未処理のまま埋め立てられ、その腐敗の過程で生成されるメタンガスが大気中に放出されるのを防ぐことができる。

「日中の企業が協力し、現在CDM事業化を目指しています」と山田は言う。「人々の生活向上に直接貢献するCDM事業を今後、さらに増やしていきたいです」

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