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Highlighting JAPAN

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ものづくり

青芳製作所(仮訳)

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金属洋食器の産地である新潟県燕市で、近年、青芳製作所のものづくりに多くの注目が集まっている。同社は、特に、高齢者用の革新的なナイフ、フォーク、スプーンの製造でよく知られている。柳澤美帆が同社を訪れた。

青芳製作所が福祉用スプーンを開発したのは1986年、燕市の洋食器製造業が不況にあえぐ中でのことだった。

同社が福祉関連製品の製造に着手したのには、あるきっかけがあった。当時の社長(現会長)青柳芳郎氏は、小児麻痺で手に障害を持つ自身の娘のために食器を個人的に作っていた。その経験から、手の不自由な人々のためのスプーンを作れば世の中のためになると考えたのだった。

しかし、当初は全く売れ行きが伸びなかった。人それぞれに利き手や手のサイズ、そして障害の程度も違うため、ニーズにぴったり合った形の食器を作ることができなかったためだ。同社は、障害者が使いやすい製品設計、素材を求めて奔走し、試行錯誤を重ねた。そんな時、三菱重工業が、熱を加えることで何度でも自由自在に形を変えられる「形状記憶ポリマー」という新素材を開発したという情報が舞い込んだ。

「この素材ならいけるかもしれないと思い、すぐに三菱重工業の担当者に共同開発のお願いに行きました」と、秋元幸平専務取締役(Senior Managing Director)は当時を振り返る。

形状記憶ポリマーは、日本の高度成長期を牽引した三菱重工業が、草刈り機のエンジン用パーツの素材として開発したものだった。そこに、地方の一中小企業である青芳製作所がまったく畑違いの福祉用品に使いたいというアイデアを持ち込んだ。三菱重工業の技術開発担当者は、申し出に驚きながらも、秋元さんの福祉に役立てたいという熱い思いを理解し、共同開発を快諾した。

食器も食欲の種

こうして1991年10月に誕生したのが「U字型」のグリップを、持つ人の手の形にあわせて自由に変形させることのできる福祉用スプーン「WiLL-1(one)」だ。

グリップ部分のポリマーは、70℃以上のお湯に浸けるとゴムのように柔らかくなり、容易に成形できる。次に20℃以下の冷水に浸けるとガラスのように固まって手に馴染むグリップができあがる。

フィラデルフィア美術館が主催した1994年の企画展「日本のデザイン―1950年以来展」で、その機能性とデザイン性が高く評価され選定作品となった。同社はその後もWiLL-1の改良を続け、グッドデザイン通産大臣賞(当時)や、キッズデザイン賞など数々の賞を受賞している。

続いてヒット商品となったのが2004年発売の「ライトスプーン」だ。日本で広く普及しているスプーンは、西洋のものをベースに作られたものだ。このスプーンは高齢者にとっては重すぎる。場合によっては食事の意欲を削ぐと言う。

この問題を解決するため、そこで同社は高齢者でも使いやすいスプーンの開発に着手した。カレースプーンで1回にすくう量は25グラムだが、飲み込む力が弱くなった高齢者には多すぎる。そこで日本人の口のサイズ、高齢者のかむ力を調べたうえ、スプーンの形を平たくして一回にすくう量を18グラムに落とした。さらにグリップの中を空洞にすることで軽量化に成功。またネック部分に多様な角度をつけた製品を揃え、最適な角度で食べ物を口に運ぶことができるよう工夫を施した。

機能と美しさを求めて

「WiLL」シリーズも「ライトスプーン」も、機能性の高さはもちろんだが、目を引くのはそのカラフルさ、そして柔らかさを感じる流線型のデザインだ。

「日本人は食に対する美意識が高いと思います。せっかくの食卓に無機質な食器が置いてあっては、食欲もわきませんから」と秋元専務。

「今後はさらに多くのユーザーから要望を聞き、商品に反映することで、障害を持つ人たちの美味しい食事のお手伝いがしたいと願っています」

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