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科学技術

iPS細胞を自動培養(仮訳)

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川崎重工は、国立成育医療研究センター及び産業技術総合研究所との共同研究により、ヒトiPS細胞を培養する自動システムを世界で初めて実現した。ジャパンジャーナルのエームス・パムロイが報告する。

ヒトiPS細胞は神経や心筋、肝臓、すい臓など様々な細胞や組織になる能力を持つ万能細胞で、病気の原因の解明や新しい薬の開発、細胞移植治療などの再生医療への活用が期待されている。

ヒトiPS細胞が国際的に大きな注目を集めるきっかけになったのは、2007年、山中伸弥京都大学教授が世界で初めてヒトの皮膚からこれを生成する技術を開発したことだった。以降、世界中でヒトiPS細胞の生成が行われるようになった。培養されたヒトiPS細胞は各研究者の手に渡り、特定臓器への分化の誘導などの研究に使用されている。

しかし、現状では研究用のヒトiPS細胞は大幅に不足している。もともと、細胞培養は極めて繊細な作業だ。温度管理や細菌による汚染の防止はもちろんのこと、培養液を交換する、ピペットで正確な量の液体を注入するといった細かい手作業が要求される。さらに、臓器や神経など様々な細胞に分化していく前のヒトiPS細胞は、温度、気圧などのわずかな変化により分化が始まってしまう。ヒトiPS細胞を実際に薬の開発や医療に使用するためには、効率的な培養方法の確立が急務となっている。

こうした中、川崎重工は、2009年、ヒトiPS細胞の自動培養装置「AUTO CULTURE」を世界で初めて開発した。

川崎重工が細胞の自動培養装置の研究を始めたのは、2000年代半ば頃だ。それまで同社はバイオ分野で必ずしも大きな実績を上げていなかった。しかし、川崎重工には、ロボット分野で絶えず世界トップファイブ内の立場を維持してきたという強みがあった。特に、精密な作業を必要とする溶接ロボット等の制御技術に関しては実績がある。

「我々が蓄積してきた機械技術を、繊細さが重視される細胞培養作業でも役立てられると思ったのです」

ヒトiPS細胞自動培養装置開発プロジェクトのリーダー、中嶋勝己氏は言う。中嶋氏自身もロボット分野で長く研究に携わってきた。彼は、人間の手作業を再現できるロボティクスと、人間の目と同じように、細胞の状態を機械が判断できる画像処理技術とを組み合わせることで、ヒトiPS細胞培養の作業を自動化できると考えたのだ。

「AUTO CULTURE」は、薬液や培養液を保管する冷蔵保管庫、細胞を培養するインキュベーター、シャーレのフタを開けたり、シャーレに細胞を入れたり、培養した細胞を切り取って別の容器に移すといった作業を行うロボットなどで構成されている。「このシステムにおいては、ロボットが、シャーレやフラスコなどの移動作業を寸分の狂いもなく進められることが立証されています」と中嶋氏は言う。

また、培養中のヒトiPS細胞の画像データと、これまで蓄積されてきた、ヒトiPS細胞との画像データを比較することで、培養中に分化が始まってしまったヒトiPS細胞を発見し、取り除くシステムも備えている。これにより未分化のヒトiPS細胞のみを効率的に培養できるのだ。

現在川崎重工では、更なる生産性の向上をめざし、画像処理システムの高速化、高性能化を進めている。

また、AUTO CULTUREでは、作業終了ごとに、アルコール噴射による殺菌を行っているが、将来的には、さらに殺菌力の強い過酸化水素を利用して、細胞の汚染や偶発的な病気感染を防止できるように改良しつつある。これにより、研究用iPS細胞よりも、さらに清潔な環境が求められる再生医療用のヒトiPS細胞の培養が可能になるのだ。

「現在、ヒトiPS細胞の利用は、創薬分野で緒についたばかりです」と中嶋氏は言う。「今後、再生医療など、ヒトiPS細胞の利用がさらに広がれば、ヒトiPS細胞自動培養装置のマーケットも、非常に大きく成長すると確信しています」

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