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Highlighting JAPAN

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特集伝統と最新技術で守る建築

紙の建築で人々を救う(仮訳)

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建築家の坂茂氏は、紙管を使った建築を災害の被災者のために活用することで、世界的な評価を受けている。坂氏の建築と活動を紹介する。

建築家の坂茂氏は、「国境なき建築家」だ。東京、パリ、ニューヨークに事務所を持ち、東京の大学図書館、韓国のゴルフクラブハウス、フランスの都市メッスにある美術館ポンピドーセンターの分館、アメリカのコロラド州のニュー・アスペン美術館など、様々な国で建築物の設計を行ってきた。しかし、坂氏が「国境なき建築家」と呼ばれるのは、単に世界各地の建築物の設計に携わっているからではなく、まさしく「国境なき医師団」のように、世界中の地震、津波、ハリケーンなどの自然災害による被災地にボランティアで駆けつけ、家を失った人々のための住宅建設や、破壊された建物の再建に力を注いでいるからと言える。

坂氏は1980年代から、木の暖かさを表現しつつ、木に代わる建築材料として紙に注目し、紙管(しかん)の研究・実験を行っていた。この紙管を災害支援に初めて活用したのは、1995年1月に発生した阪神淡路大震災の時であった。坂氏は震災後に被災した神戸市を足繁く訪れ、火災で焼けた教会の敷地に、高さ5mの紙管58本で、布製の屋根を支えるという構造のコミュニティーホール(通称、「ペーパーチャーチ」)を造った(現在ペーパーチャーチは、1999年の台湾大地震で被害を受けた村に移設され、コミュニティーホールとして使用されている)。

紙管は軽く、価格も安く、比較的どの国でも手に入りやすい。また、建築の時に重機も必要ないというメリットがある。さらに、紙管は段ボール、新聞、雑誌などの古紙で作られているので、仮設住宅の解体後も、廃棄・焼却、あるいはリサイクルがしやすい。

その後、1999年、国連難民高等弁務官(UNHCR)がルワンダ難民のために提供したシェルター、1999年のトルコ、2000年のインドでの地震による被災者の仮設住宅、2008年の四川大地震で被災した小学校の仮設校舎など、紙管を使い、数々の支援活動に携わった。

東日本大震災でも、坂氏は積極的に支援活動を行っている。被災者が避難所でプライバシーを守るための紙管による間仕切り、既存の貨物用コンテナを組み合わせて建てる3階建て仮設住宅などの支援を行った。

こうした活動が評価され、2011年9月27日、坂氏はUIA2011東京大会でUIA特別賞の一つであるオーギュスト・ペレ賞を授与された。審査委員は「坂茂は、建築技術の可能性を駆使し、富裕層のためだけではなく、災害救援のために紙管と膜を使った避難所の創造的探求をしていることで国際的な敬意を得ている。そしてその創造を機能や美観を妥協することなく行っている」と講評した。

坂氏は自身が災害救援活動に積極的にかかわる理由についてこう話す。

「自然災害で人が亡くなるケースにおいて、その原因のほとんどは人為的なものです。地震で人が亡くなるのではなく建築の崩壊で人が亡くなるのです。だからこそわれわれ建築家は災害に対して大きな責任があると考えています」

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